(3)視点の高さと目的

 視点の高さは目的の有無、ならびにその強さによって差が出ると考えられます。

 目的が明記されていない文章は、視点が低くなります。単なる通知書や指示書、あるいは事務的な手続き書の部類です。主張が盛り込まれた文章には、主張の背景や主張する目的が書かれる必要があります。何のために主張するのか、何のために行動するのかが明記されていないと主張にならないからです。従って目的が書かれていない主張は、視点が低いと見なされるのです。もちろん、書く人と読む人で目的の共有が図られている仲間同士の場合は、この限りではありません。

 目的が明記されている文章は、視点が高くなる可能性があります。主張の背景や主張の理由が明記され、一般的には多くの人に支持されることを狙って、広範囲な主語が選ばれることから、視点は高くなります。目的の中に、主張を実現する筋道(プロセスもしくはシナリオ)を含んでいる場合には、その文章は意図的で下心があるものとなり、視点はさらに高くならざるを得なくなります。視点を高くしなければ主張の納得性が弱くなり、多くの支持者を得ることができないからです。文章だけでなく、対人コミュニケーションの場合も同じことが言えます。ビジネスの世界で行われるコミュニケーションを事例として考えてみましょう。

 ビジネスの世界で目的のないコミュニケーションと言えば、懇親会の場面が考えられます。懇親という目的は存在するのですが、会話の内容に限定される特定の目的は存在しません。このような場面で交わされるコミュニケーションは方向性がなく、その時々の会話の流れに沿って次々に内容が変わっていくものでしょう。話の展開次第では目的のある会話が交わされることがあるかもしれませんが、コミュニケーション全体を捉えると特定の目的があるわけではなく、意図的に視点の低い会話が交わされるのが普通でしょう。このようなコミュニケーションを「おしゃべり」と呼ぶことができます。

 ビジネスの世界で目的のあるコミュニケーションと言えば、会議の場面が考えられます。情報伝達が目的の会議や部門間の調整が目的の会議もありますが、企画会議こそが明確な目的を持った創造的な会議でしょう。コミュニケーションは特定の方向性を持って活発に行われることになります。特定の目的があるために視点の低い会話はなりを潜め、視点の高い会話が交わされることになります。このようなコミュニケーションを「議論」とか「討議」と呼ぶことができます。

 もう一つ、ビジネスの世界で明確な意図があるコミュニケーションがあります。お客様提案、見積もり提案、クレーム対応といった場面です。これらの場面では、事前に決着するための議論の過程(シナリオ)が想定されている場合が多いでしょう。すなわちシナリオ付き目的が存在しなければ、目的を達成することができなくなります。このようなコミュニケーションを「提言」もしくは「交渉」と呼ぶことができます。

図2 視点の高さと目的の関係

 このように、文章の目的と視点の高さには深い関連があります。コミュニケーションにおいても、目的と視点の高さには深い関連があると言えます。視点の高い主張を行うためには、目的を明示するべきです。その目的も、シナリオ付き目的を明示するべきです。そうすれば視点は高くなると筆者は思っています。