こうした状況を考慮し、中国の新医療改革政策では、2020年には人々が皆基本的な医療と衛生の保障を享受できるようにすることを目標としている。これは、公費による医療保障で国民が必要とする基礎的医療サービスの各種費用を賄い、国民がさらに専門的な医療サービスや医療商業保険を選択する場合は自費負担にする、というものである。また、現在の疾病管理を中心とした方式を変え、人を中心に据え、予防と健康管理を重視した医療サービスへ転換していこうとしている。

 中国は、短期的には、基本的な医療保険制度の構築と人々の医療費負担の軽減に重点を置いている。基本的保険の普及率は2011年までに90%以上へ拡大することを目指している。新型農村協同医療、都市部・農村部の労働者医療保険や住民医療保険などの方式で、保険の普及率を高めようとしている。国民の医療費負担削減については、公立病院の改革に焦点を絞って既存の補償制度を改善する。

 さらに、農村における医療資源不足を改善するため、プライマリ・ケアを提供する機関の建設および医療衛生従事者の育成に力を入れる計画である。農村の医療衛生サービス・ネットワークを整えることで、プライマリ・ケアのサービスを強化していく。つまり、「公営機関は主要な基礎医療(プライマリ・ヘルスケア)のサービス・プロバイダ、民営機関はその補助」という体制の構築を目標としている。県レベルの病院をリーダー、郷・鎮の衛生院をバックボーン、村の衛生室を基礎とする「三級医療衛生サービス・ネットワーク」による分業協力制度の創設を目指す。

 中国ではこれらの目標を実現するために、3700カ所の「社区医院」(地区、コミュニティ・レベルの病院)と1000カ所の郷村衛生室を新たに建設するか、または改築する必要がある。民営病院設立基準の緩和や公立・私立病院間の土地使用権および徴収待遇上の差別撤廃を通じて、こうした各レベルの医療衛生ネットワーク構築の目標を達成しようとしている。

 三級医療衛生サービス・ネットワークを建設するためには、国民健康記録(カルテ)の確立、基本薬物(必須医薬品)の管理、調達制度など、情報の透明化・共有化に関する作業を含めた、インフラ構築への大規模投資も短期間に実施する必要がある。医療改革政策のもと、病院における情報システムの構築とその更新、および情報の統合も、近い将来に発展させるべき重要な施策の一つになると考えられる。

 長期的には、医療改革政策は個人医療情報の共有・共用の強化、医療級別制度の基礎と合わせて構築される国民健康予防管理を目標に、一人ひとりの病歴と健康情報の維持・保護に対する強化、疾病の予測や予防などにも重点を置いていくと思われる。

図2 中国の医療改革政策の要点
出所:工業技術研究院IEK(2011年6月)
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