さて、『河南商報』(10月21日付)など中国メディアによると、優秀工員への賞品は、iPhoneと賞金だけではない。操業が休みとなる2012年1月下旬の春節(旧正月)休暇に合わせて、フォックスコン本社のある台湾への旅行を贈る。さらに中国各地に住む受賞者の家族約400人を、19日の深センの表彰式に招待している。

 中国における日系企業の工場経営に詳しいあるコンサルタントは、「中国で従業員を定着させるためには、社員本人はもちろん、両親に『この会社はいい会社だ』と思わせることが重要。ストライキ防止策としても有効だ」と指摘する。

 さらに面白いのは、同社が生産拠点を置く各地の地方紙が、「武漢園区から4人受賞」(長江日報)、「受賞者の2割は河南人」(河南商報)、「優秀社員は湖南が最多」(湖南日報)等々、自らの省から表彰者を何人出したかを競って報じていること。まるで「おらが村の誉れ」というような扱いだ。従業員を酷使しているとして批判にさらされることも多いフォックスコンだが、Appleやソニーなど世界的な人気ブランドの生産を手がける同社で働くことを誇りに思う従業員本人たちや親たちが少なからずいることも、また事実なのだろう。

 このほか、希望する優秀工員については、昇進に向けた無料の研修や、地方の工場から深セン本部への異動、それに伴う戸籍の移動でも便宜を図るという。

 優秀工員になれるのは6000人に1人の確率。まさに至難の業だが、これだけ魅力的な特典を準備していれば、これを励みにする社員も少なからず出てくることだろう。フォックスコンは今回の式典に、中国17省市の26工場から集まった数十万人の従業員を出席させ、優秀工員の晴れの姿を見させている。

 19日の表彰式であいさつした郭董事長は、昨年来進めている中国内陸やブラジルなどへの生産拠点の分散にも言及。ブラジルについては、「自ら視察してきたが、ブラジルには豊富な鉱物資源や大量の土地がある。当社は2012年、ブラジルに生産拠点を含む工業パークを設立する」と表明。「優秀な従業員諸君には、ブラジルに駐在して仕事をしてほしい。もちろん、両親や妻子を連れて行ってもいいし、独身の人にはブラジルで嫁探しを手伝う。ブラジルは美人が多いぞ!」とおどけて語ったという。

 郭氏によるとブラジルにはまず、中国や台湾から数千人を派遣して、一部技術の移転を進める。その後、携帯電話やPCについて、生産ラインの一部をシフトするとしている。

 さらに郭氏は、「私自身は、自宅に滞在する時間が1年で35日を超えることがない。もちろん、もっと多くの時間を家族と共に過ごすことを望んでいる」として、自らのハードワーカーぶりを嘆いてみせた。その上で、同社が昨年来、四川省成都や重慶、山東省煙台をはじめ、生産拠点を中国の地方に分散させていることに触れ、「従業員諸君には、故郷の近くにある生産拠点で仕事をしてほしい。両親にも会いやすくなる」と述べた。