(4)視座力を高めるために

 視座力を高めるためには、まず自己中心的な思考から脱却しなければなりません。小さい子供は、ある時期、自分のことしか考えられませんので、典型的な「自己中心的な人」です。ただ、成育するに伴い、家族以外のいろいろな人と関わって成長していきます。幼稚園の友だちや先生、友だちのお父さんやお母さん、友だちの兄弟姉妹、学校の先生、学校の友だち、校医さんをはじめとしてお世話になるお医者さん、近所の人、買い物先の人などです。そこで、自分とは異なる世界の人たちや、自分とは違う立場の人たちがいることに気付きます。

 長じて社会に出ると、勤め先でいろいろな役割の人と接します。もし、ある人が接客という仕事に就けば、「接客係」に対して「顧客」という全く逆の立場の人の存在と、価値観の違いにも気付かされます。

 普通の人は、このように成長する過程でいろいろな立場の人がいることを学習します。しかし、何かの問題を解決しなければならなくなった時に、自己中心的な人は、その問題に関わる人が世の中にどれだけいるかということにまで考えが及ばないのです。自分の世界だけで、また自分の価値観だけで判断を済まそうとし、その上、気付いた問題だけに注目して解決しようとしてしまいます。

 したがって、自己中心的な思考から脱却するためには、解決しようとしている問題にどのような人が関わっているかを常に意識する(考える)必要があります。これが、私たちが言う「より広い視座意識」です。この視座意識は、問題解決の場ばかりではなく、身の回りにいくらでも実践する機会があります。

 例えば、テレビや新聞で報道されるニュースに登場する人物の視座を考えてみることにしましょう。ニュース(出来事)に直接関わった人、報道する人、報道される人、ニュース・キャスター、解説者、アナウンサー、ディレクター、カメラマン、その助手、取材者、編集者、記者…と数多く出てきます。このように日常から視座を意識することで、「視座意識力」を高めることができると、私たちは考えています。

 自己中心的か否かを意識していなくても、思考範囲の狭い自分から脱却するためにも、あるいは視座の考え方を正しく理解するためにも、または問題を適切に解決するためにも、自分の視座や他人の視座を多面的に意識する力を高めることが必要です。これが、自己認識の「視座意識」です。

 例えば、会議やプレゼンテーションの場では、自分はどのような立場にあるのかを考え、自分に対する期待や役割を客観的に見ることが重要です。会議の場合、自由に意見が言える参加者(視座)なのか、司会役(視座)なのか、何かの利益代表(視座)なのか、オブザーバー(視座)なのか、書記役(視座)なのか、答弁者(視座)なのか…。それによって、参加態度や発言内容などを変えることもあります。

  また、プレゼンテーションの場合、発表者(視座)である場合でも、視聴している人(視座)との関係を意識することで、説明調的な魅力のないプレゼンテーションを、相手の価値観に適合した効果的なプレゼンテーションにすることができます。このように言うのは容易なのですが、自分に対する期待や役割を客観視することは、慣れないとなかなか難しいことです。

  「人の振り見て、我が振り直せ」という諺があります。日ごろから他人がやっていることを客観的に見ることで、自分がその立場になった時に、自分を他人のように見ることができます。すなわち、自分を客観視(これを一種の「メタ思考」と言います)できるようになります。皆さんには、自分を客観視する習慣を付けてほしいのです。