技術経営 技術者が知っておきたい経営と市場の最新情報
 

スティーブ・ジョブズ流が日本を救う道であるワケ(前編)

ジョブズがスマートフォンを作ったわけではない

生島 大嗣=アイキットソリューションズ
2011/10/28 08:00
印刷用ページ

『まさか返事が来るとは思わなかった。
三洋電機のオーディオ子会社、三洋テクノ・サウンド新規事業部長の鈴木孝夫は海の向こうから来た電子メールのアドレスを何度も見直した。
Steve Jobs
それは確かに、米アップルコンピュータの創業者、スティーブ・ジョブズからの返信だった。1999年7月のことである』

 これは「三洋電機 井植敏の告白」(2006年 日系BP社 刊)の一節です。

 90年代に国産ラジカセが競争力を失ってしまい、三洋電機のオーディオ事業は慢性的な赤字に陥っていたという背景がありました。普通のオーディオを作っていたのではダメだということで、三洋がこのとき打った起死回生の一手がスティーブ・ジョブズへの新しいオーディオシステムの提案でした。

 当時アップルはカラフルな半透明の筐体で斬新なデザインを施したiMacで復活の足掛かりを掴み、次の一手を探していたところでした。そこに家電メーカーとして液晶、メモリー、2次電池などのデジタル携帯プレーヤーに必要な要素技術を持つ三洋電機からパートナーシップのオファーが届いたのです。

 当時三洋電機は社内で「リキッドオーディオ」と呼んでいたデジタルオーディオ構想を持っていました(後に名称は変更されています)。それはテープやCDといった可動部分を持たずに、半導体メモリーに楽曲データを記録する機能を持ったオーディオ装置でした。これを更に発展させて、三洋は楽曲をインターネットからダウンロードさせて配信するというアイデアを持っていました。

 1998年には三洋電機は、デジタルカメラで世界シェアの2/3を誇っており、その基本技術は米国ベンチャーと組むことで手に入れていました。できるところと分け隔てなく手を組むという発想とその基になるさまざまな成功体験があったのでしょう。だからこそデジタル携帯プレーヤーの開発においてもアップルと手を組むという戦略を実行しようとしたのかもしれません。

 しかし交渉は約1年で打ち切られてしまいます。いろいろと両社の間に溝がありました。この本では、三洋がアップルのロゴを使用したかったけれどアップルがこれを承諾しなかったこと、データの転送方法にアップルは当時最先端の規格だったUSBを使いたかったが三洋はコストを考えるとそれは容認できなかったといったことが交渉の障害として挙げられています。結局この時点で両社は袂を分かち、三洋とアップルはそれぞれ自社ブランドの携帯音楽プレーヤーを発売することになります。

 2001年11月に発売されたiPodに関して、その後の大ヒットに至った詳細はここに書くまでもなくみなさんがご存じの通りです。最初はイノベーターやアーリー・アダプターといったユーザーが使用し始め、徐々に売り上げを増やしていったiPodですが、後にレコードレーベル各社と交渉を成功させて、スタート時点で20万曲の楽曲を一曲99セントでダウンロードできるようにしたiTunes Music Store の立ち上げと共に、その販売数を圧倒的に伸ばしていきました。

 これに対してアップルにネットからの楽曲ダウンロード配信というアイデアで提携を持ちかけた三洋は、日本の大手レコード会社をも説得できず、韓国、香港の楽曲と関西系の路上アーティストなどのアマチュアバンドの楽曲を2000曲しか集められなかったのです。三洋の楽曲配信システムであるmusic.sanyo.com はこうして失敗しました。

【技術者塾】
実践で学ぶ!システム設計力強化トレーニング(9/2・3開催)

~複雑化する製品の設計情報を見える化し、品質向上と開発効率化を実現~


システム・サブシステムにおいて、要求⇒機能⇒実現手段の順に段階的に設計案を具体化しながら、各段階において異分野の技術が相互に与える影響や背反事項のすり合わせを行うことが重要です。また、元々日本企業が得意なすり合わせをより効率的・効果的に行うために、設計情報を見える化し共通言語とすることが必要です。これらにより、システム目標の未達や見落としを防ぎ、品質向上と開発効率化の実現を目指します。詳細は、こちら
日時:2015年9月2日(水)・3日(木)
いずれも10:00~18:00
会場:京王品川ビル セミナールーム(東京・品川)
主催:日経テクノロジーオンライン
コメントする
コメントに関する諸注意(必ずお読みください)
※コメントの掲載は編集部がマニュアルで行っておりますので、即時には反映されません。

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング