(1)気が付くことから視点力へ

 いろいろな事物や現象(併せて「事象」ということがあります)、風景といった外界にあるものに対して、あるいはイメージや印象、感情といった心の中にあるものに対して、または知識や考え方、コンセプトという頭の中にあるものに対して、さらには思い付きやアイデア、企画といった意図的なものなどに対して、人はさまざまなことを考えます。その結果を記述したもの、例えば物語や報告書、解説文などを読むと、すごくいろいろなことに気が付く人がいて、感心させられることがあります。

 そのような人は、どんな頭の使い方をしているのでしょうか。ついつい気になってしまいます。私の勝手な推測ですが、よく気が付く人は一般の人よりも多くの視点を持っているに違いないと思います。

 ここでいう視点とは、目の付け所である着目点、目を凝らして見ている注目点、強い関心をもっている点、こだわり、目的や目標に関わるターゲットなど、いろいろな意味を持つ言葉として使っています。こうした視点について、私は名詞や名詞句として表現することにしていますので、そのように受け取ってください。

 視点を数多く持てる人は、もともと多趣味な人であったからでしょうか。いや、旺盛な好奇心を持った人であったのでしょうか。はたまた、一種の教養人だったのでしょうか。決して単なる物知りではないと思います。やはり、よく考え、よく気が付く人なのでしょう。当然のことですが、私たちも「豊富な視点を持ちたい」と思い、そして「その視点でもって深く物事を考えたい」と望みます。

 そのためには、まず豊富な視点を持ち、それをうまく活用することです。活用するということは、例えば抜かりのない仕事をしたい、よいアイデアを出したい、また上手なプレゼンテーションをしたい、時には問題を解決したい、といったことをやり遂げたいことなのです。私たちは、そのための基本の力の一つが「視点力」であると考えています。

(2)読み取る力

 大学での授業や企業でのセミナーなどで、私は視点を考えてもらう演習の方法を工夫してきました。やり方は、数枚の写真を用意して「この写真に見える視点を挙げなさい」という指示から始めます。1枚目は風景写真を使うことにしています。ポイントは「見える視点」という言葉です。写真には何の視点も明記はしていません。

 受講生たちの中には当初、「思い付きません」「全然見えません」「分かりません」と言う人もいます。こんな時、私は簡単なヒントを与えることにしていました。

 「山が写っていますが、植林を意識したら、それは視点ですよ」と。受講生たちは、口々に「山が視点なら、自然も視点ですね」「開発されている所が見えるから、開発も視点ですね」「送電線が小さく見えているから、電力や送電も視点かな」「橋があるから、輸送や交通も視点だ」…。ここまで来れば、しめたものです。こんな写真からでも、読む気になれば視点は読めるのです。

 次に使う写真は、多数の人物が写っている写真です。「老人も子どももいます」「元気な子どもたちですね」「にこやかな夫婦もいる」「都会の風景ですよね」…。「だから?」と私は畳みかけます。「都市生活」「生活の場」「人のふれあい」「あたたかさ」「仲の良い夫婦」「元気さ」「思いやり」「活動範囲」「交通手段」「交通弱者」といった視点が出されます。

 こうした演習から、見えないものが見えて来るのです。いや、見ようとする心の活動が活性化して、推測しながらイメージが描け、言葉になって出るのでしょう。視点はその活動から生まれて来ます。