コンボ・センサが自動車向けMEMSの成長をもたらす

 不確実な経済状況の中、成熟した自動車市場が軟調になっている。そんな中、世界中のすべての市場において、MEMSによって実現される安全機能を自動車に追加する需要が高まっており、自動車用慣性センサ装置の市場を今後5年の間に年平均で10%以上成長させるだろう。しかし、販売価格の下落が続き、個別の慣性センサから得られる利益は今後数年の間に頭打ちになるだろう。プロセサを共有して、動作検知機能を効率的にコンボ・デバイス(複数機能をもつ装置)に組み込む最もよい方法を考え付いた企業が成長することになるだろう。仏Yole Developpement社は、こういったコンボ・センサが2016年までに自動車用慣性センサの市場の15%以上を占めるようになると予想している。なぜなら、コンボ・センサは個別のセンサよりも低いコストで複数の機能を実現できるからだ。

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 自動車部門において、コンボ・センサは主に電子安定制御(ESC:electronic stability control)システムに使用される。加速度計やジャイロ・スコープを1つのパッケージにまとめて1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)を共有させれば、コストを20%以上削減できる。ESCシステムに対する需要は安定して成長することが見込まれている。世界中の政府がこういった人命を守る安全システムの搭載を義務付けていて、すでに全自動車の半分ほどにESCシステムが搭載されているからだ。米国と欧州、オーストラリアは2011年にすべての車にESCシステムを搭載することを要求しているし、日本と韓国、カナダは2013年くらいまでに同様の要求をすると予想されている。そのため、ESCシステムは2016年までに全軽自動車の約3分の2に搭載されるだろう。コンボ・センサはコスト削減に大きく貢献するため、5年以内にESC市場の40%を占めることになるとYole Developpementは予想する。

 コンボ・センサによるソリューションは、転倒センサのコストを下げることも可能だ。転倒センサは世界的に見ればあまり利用されていないものの、SUVやミニバン、軽トラックが多く走っている北米では、加速度計とジャイロ・スコープを用いた転倒センサの市場浸透度はすでに40%ほどに上る。2018年から米国政府が新車に転倒センサを搭載することを義務付けるため、さらなる需要が約束されている。この転倒センサの機能をコンボ・センサやESCユニットに統合することによって、プロセッサのシリコン・コストを下げることができ、またこの用途に向けたコンボ・ソリューションの需要を高めることもできる。

 統合型のナビゲーション・システムも、ESCシステム内のジャイロ・スコープを利用することによってコストを下げることが可能だ。しかし、主要な日本メーカーの村田製作所とセイコーエプソン、パナソニックは、世界中で独立したGPS装置や、さらにはスマートフォンによっても代用されつつある自動車専用の装置の需要にも期待している。

新規参入者にとっては、既存のサプライヤーと勝負できるチャンス

 コンボ・センサのメーカーで初めに成功するのは、加速度計やジャイロ・スコープの技術を自社で持っていて、それらの機器をある程度の歩留まりで製造でき、プロセッサをデザインする能力が高いメーカーか、もしくはそれらの能力を持つ企業と提携しているメーカーだ。自動車向け加速度計の市場リーダーであるRobert Bosch社は、自社の2軸加速度計とジャイロ・スコープ、1つの共有ASICを1つのパッケージに収めた(昨年発表された)製品で、ダイ・サイズを70%小さくした。フィンランドVTI Technologies社はコンボ製品をContinental社に販売している。そして、消費者市場の有力MEMSメーカーはコンボ製品を利用して自動車市場に参入しようとしている。SensorDynamics社のコンボ・センサは、同社のジャイロ・スコープと消費者製品向けMEMSサプライヤーであるKionix社の加速度計を組み合わせたもので、SensorDynamics社の新たな親会社であるMaxim Integrated Solutions社の協力によってプロセッサのデザインを大幅に向上させている。

 こういった早い段階でコンボ・センサを扱う企業は、他の主要な自動車向け慣性センサのサプライヤーが競争力のあるコンボ製品を開発するまでの間にシェアを確保するだろう。自動車向けジャイロ・センサの市場リーダーであるパナソニックは、いまだ加速度計とコンボ・ユニットを開発している段階だ。自動車向け加速度計の雄であるデンソーは、昨年ジャイロ・スコープを発表したもののコンボ・ユニットはまだ未発表だ。Analog Devices社は必要な部品すべてを社内で調達できるため、注目に値する挑戦者だと言える。

 センサ入力の中央処理は、その他の用途にも広まっていくだろう。しかし現時点では、どこで何をするのか、誰が最良のインテグレーションを行うのかについての、はっきりとしたコンセンサスはできていない。中央慣性計測装置(IMU)と中央電子処理装置も、スマート・エアバッグ・コントロールとブレーキ・システムの性能を上げ、コストを減少させるだろう。もしくは、中央センサ処理の利点を活かして新たなセンサ機能を比較的低コストで追加することを可能にし、結果としてナビゲーションやプラットフォームの安定化、アクティブ・シートベルト、レーン走行支援といった機能の採用を後押しするかもしれない。しかし、消費者製品向けセンサの世界で明らかになってきているように、この恩恵を受けるのはセンサのメーカーなのか、プロセッサ・チップのメーカーなのか、それとも中堅のソフトウェアやデザイン企業なのかはまだはっきりしていない。