東日本大震災から半年――。この間だけでも、被災地の復興やエネルギー問題、放射性物質による土壌汚染、台風12号による災害など、日本の社会インフラの大きな見直しを迫る事象が次々と各地を襲った。こうした中、国内ICT(情報通信技術)企業は深く自問し始めている。「大きな社会的課題に対し、我々は何ができるのか」と。

 それを象徴するように今夏、相次いで開催されたのが、大学院生や新社会人といった若手を対象にした「社会的課題とICT」を考えるイベントである。背景には「社会的課題に立ち向かえなければICT産業の将来はない」「社会的課題に応えられるICT人材が足りない」という業界の強い危機感がある。

宿を通して復興策を議論

 そうしたイベントの一つが、ITサービス大手のNTTデータと野村総合研究所(NRI)が2011年7~8月にかけて実施した「日本を創り継ぐプロジェクト」である。16~25歳の学生と社会人を「Facebook」などで募り、日本の復興を加速するためのアイデアや方策について議論した。

 同プロジェクトは、NTTデータとNRIが展開する「ITと新社会デザインフォーラム」の一環で、「社会をデザインできる人材」の育成を目的に掲げている。まず8月8~12日の5日間、62人の参加者が千葉県成田市のホテルに集まり、12チームに分かれて合宿を実施した。震災情報集約サイト「sinsai.info」を運営する関治之 代表や、被災したNTTデータ東北の社員を招いて話を聞いたり、インターネットで情報を集めたりしながら、各チームはそれぞれの復興プランを練り上げていった。

 そして合宿最終日の12日。各チームはプレゼンでアイデアを競った。その結果から選ばれたのは4チームである。選ばれたチームのメンバーは8月21日から仙台市松島のホテルに赴き、被災地でのインタビューなども実施しながら、25日の最終プレゼンに向かって成田でつくった復興プランを磨き上げていった。各チームには、成田で選に漏れたチームの中から引き抜かれたり、自ら希望してチームに加わったりした参加者もいたという。

 今回の日本を創り継ぐプロジェクトでは、特にICTを使うことを求めていない。参加者もICTを学ぶ学生たちに限定しなかった。それが奏功したのか、仙台市内での最終プレゼンで4チームが示した復興プランの発想は幅広い。具体的には、次の四つである。(1)iPadのようなタブレット端末を「電子回覧板」にして住民の対話をうながすシステムの開発、(2)食の安全を、消費者と生産者、放射線などの専門家が本音で語り合う「フードミーティング」の実施、(3)被災者が望む復興策に直接募金する「一口村長」という仕組みの開発、(4)津波による塩害にも強い植物のケナフを栽培し、そのケナフから紙製品を作って得た収入で被災地に花を植えるビジネスモデル「Kenaflower」だ。

 最終プレゼンの審査員には、NTTデータの山下徹社長とNRIの藤沼彰久会長のほか、宮城県の震災復興・企画部長の伊藤和彦氏、前岩手県知事で元総務大臣の増田寛也氏、Asian Venture Philanthropy Networkの伊藤健氏、高校生起業家の梅崎健理(うめけん)氏が顔をそろえた。

 四つの復興プランに対する優劣は付けなかった。ただ、今後の「ITと新社会デザインフォーラム」の中で、今回のプランに基づいたプロトタイプを作りたい考えだ。

写真1●「日本を創り継ぐプロジェクト」での最終プレゼンの様子
写真1●「日本を創り継ぐプロジェクト」での最終プレゼンの様子