「中国出身の大学教授が、日本でベンチャーを立ち上げ、成功を収めつつある」と聞き、ぜひ会ってみたいと思った。

 徐剛(ジョ・ゴウ)氏。立命館大学の情報理工学部で教授を務めると同時に、三次元メディアというベンチャー企業の社長である。この人物が今回の華麗なる技術者だ。

徐剛氏。三次元メディア 社長、立命館大学 教授。
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 三次元メディアは、産業用ロボットの“眼”を開発するファブレス・メーカーである。社名からも想像できるように、中核技術は3次元立体視だ。最新の製品は、二眼式カメラで撮影した映像を使って物体の形状と位置を自動で見分け、バラバラに置かれた部品の中から所望のものを高速でピックアップするロボット・ビジョンである。徐教授らが開発したアルゴリズムを武器に、創業からほぼ10年間、右肩上がりに売り上げを伸ばしてきた。当初は学生を雇ってスタートした会社が現在では14人の従業員を抱えるまでになった。

 2011年9月には、創業の頃から入居していた“保育器”を卒業した。立命館大学のびわこ・くさつキャンパス内にあるインキュベータ施設から最寄りのJR南草津駅前に本社を移転した。今回は、徐教授の上京を受けて東京・五反田にある三次元メディアの東京事務所でインタビューする機会を得た。

 聞いてみたいことは山のようにあった。

 日本国内のものづくりがどんどん空洞化し、日本企業が国際競争力を失う一方で、中国は急成長を続けている。「その中国出身の優秀な研究者が、なぜ母国や米国ではなく、日本で起業したのか?」「日本でのベンチャー企業の経営に苦労はなかったのか?」「中国出身者の目には、日本の技術力がどう映るのか?」「日の出の勢いの中国からすると、日本から学ぶものなどないのでは?」「経済成長を支える中国の技術者は、我々と何が違うのか?」……。

 要は、中国で育ち、日本で学んだ徐教授から、今の日本を再生する糸口を何か探りたいと思ったのである。 

 中国出身のベンチャー企業社長と聞いて、エネルギッシュでアグレッシブな実業家の姿を勝手に想像していた。しかし、会ってみると、実際は長身で物静かな、いかにも研究者という印象の人物だった。

的外れだった当初の思い

 インタビューを始めてすぐに、私の考えていた質問は的外れだったことに気が付いた。日本と中国を比較し、中国人から見た日本観を聞き出してみたいという私の視点は、徐教授には当てはまらなかったからだ。

 中国人であることを武器に日本の技術を中国に持ち込んだり、日本企業と中国企業の間に入ってビジネスを手掛ける人物であれば、事前に考えていた質問でよかったのだろう。だが、日本社会に溶け込み、日本人と肩を並べて研究やビジネスに励む徐教授には、あまり興味のない視点だったのだ。

 「日本での起業には、たくさん苦労があったのではないですか」という問いには、前のめりの私からするとあまりにも淡々とした答えが返ってきた。「日本でベンチャービジネスを立ち上げるのは大変と、いろいろな人が言いますが、私は特別に困ったことはありませんでした」。