精神と物質—分子生物学はどこまで生命のなぞを解けるか、立花隆、利根川進共著、570円(税込)、文庫、333ページ、文藝春秋、1993年10月
精神と物質—分子生物学はどこまで生命のなぞを解けるか、立花隆、利根川進共著、570円(税込)、文庫、333ページ、文藝春秋、1993年10月
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堤和彦氏。三菱電機常務執行役開発本部長。1952年、愛知県生まれ。1982年4月三菱電機に入社。先端技術総合研究所所長などを経て、2010年4月より現職。
堤和彦氏。三菱電機常務執行役開発本部長。1952年、愛知県生まれ。1982年4月三菱電機に入社。先端技術総合研究所所長などを経て、2010年4月より現職。
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 約20年前、40歳を前にして「精神と物質」に出会い、技術者として多くのことを学びました。「グループマネージャー」、いわゆる課長になるかならないかという時期です。

 この本は、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏が、評論家の立花隆氏の質問に答える形で、受賞までの研究の歩みなどについて述べたものです。専門外のため、研究の具体的な内容について完全に理解できたわけではありませんが、その中で語られる利根川氏の考え方や生き方は、技術者の私にとって示唆に富むものでした。

 例えば利根川氏は、大きな成果を得るには努力だけでなく、“運とセンス”が必要だと述べている。自分自身に運やセンスがあまりなくても、幸運な人やセンスの良い人と一緒に仕事をすれば、大きな成果を得られるとしています。一人で完遂する仕事などありません。多くの人々と協力することで、初めて大きな成果を得られるのです。

 私自身、運や仲間に恵まれたことで磁気センサ製造の立ち上げに成功しました。それまで私は光磁気ディスクやその材料の磁性体などの研究開発に取り組んでいましたが、三菱電機が光磁気ディスク事業から撤退したことで、私は新たに磁気センサの事業化に取り組むことになったのです。

 磁気センサの製造は、半導体の製造プロセスとほとんど同じです。しかし、センサを製造する予定の当時の姫路製作所は、自動車のスターターやオルタネーターなどを作っており、半導体の製造技術はありませんでした。そこで、製作所のメンバーや社内の半導体技術者などの協力を得て、磁気センサの事業化に何とかこぎつけました。それ以来、姫路製作所では磁気センサを年々増産しています。

 また利根川氏は、無数に考えられる研究テーマの中で「何をやらないか」を決めることが重要だと述べています。まさにその通りで、とりあえず何でもやってみよう、という姿勢はやめたほうがよい。企業でも限られたリソースの中で、何をテーマにして開発に取り組むか選択するのは非常に重要です。

 ほかにも技術者として学ぶべき内容がこの本には載っています。ぜひ、若い技術者に読んでもらいたいですね。(談=聞き手は根津 禎)

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