2011年7月21日に公表された「QUMA」技術を共同開発している3社は、ソフトイーサと、制作ソフトウエア大手のセルシス(東京都新宿区)、電気通信大学発ベンチャー企業のビビアン(東京都調布市)である。また、一般社団法人の3Dデータを活用する会(3D・GAN)のメンバーもQUMA技術開発に参画している。

図1○ソフトイーサ技術開発部の伊藤隆朗氏

 QUMA技術を開発している中核メンバーは、ソフトイーサ技術開発部の伊藤隆朗氏(図1)、ビビアンの久池井淳取締役と栗川洋平取締役CTO(最高技術責任者)の3人である。ビビアンの栗川取締役は、現在は某IT企業に勤務しており、オフタイムにQUMA技術の開発に参加した。このため、共同開発は電子メールベースの会議を中心に進められた。何か問題が起こると、「多忙な3人の日程調整を経て、時々は実際に会って侃々諤々 (かんかんがくがく)の.議論をした」と、伊藤氏はいう。

IPAの未踏ユースが育成した若手IT開発者コミュニティーが機能

 開発の中核メンバー3人の共通項は、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA」)が2002年度から始めた通称“未踏ユース”に選ばれていることだ。未踏ユースは、30歳以下の若手の突出したIT開発者を育成する事業として実施された未踏ソフトウェア創造事業であり、プロジェクトマネージャー(PM)の下で選ばれた若手が開発資金を受け取って開発目標を達成する委託開発事業だった。

 伊藤氏は2006年度上期に、久池井取締役は2007年度上期に、栗川取締役は2006年度上期にそれぞれ選ばれている。この3人はお互いに「かなりできる若手IT開発者と認め合っている仲間」と、久池井取締役は語る。「世の中でまだ実用化されていない、直感的、低価格、多用途向けの独創的な3次元入力デバイス技術の開発は面白くてたまらないので、全員が開発に夢中になった」という。この辺は、全世界のIT技術者に尊敬されたいという、UNIXのOS(基本ソフト)であるLinux(リナックス)開発の動機と同様のようだ。

 当然、ソフトイーサの登代表取締役も2003年度に未踏ユースに採択されている。筑波大1年生の時に、未踏ユースに採択されたことが大学発ベンチャー企業のソフトイーサ創業のきっかけになった。

大学1年生の時に大学発ベンチャー企業のソフトイーサを創業

 2003年12月当時、筑波大1年生だった登氏は、未踏ユースで開発したVPN(仮想プライベートネットワーク)ソフトウエアの「SoftEther1.0」のβ版を公開した。翌年2004年3月には「SoftEther1.0」完成版(Linux対応)を公表した。

 この「SoftEther1.0」はとても使いやすいソフトウエアだと好評だったことを受けて、登代表取締役は仲間2人と、ソフトイーサを創業した。2004年4月に資本金100万円で同社を設立し、登氏は代表取締役社長に就任した。筑波大発ベンチャー企業の中で、学生が創業した企業としては第2番目となった。

 2004年8月に「SoftEther1.0」商業版を商品名「SoftEtherCA」として発売した。この時は三菱マテリアルが発売元になった。その後、数年間かかって「SoftEther VPN 2.0」を開発し、ソフトウエア事業を順調に展開した。2010年3月には「SoftEther VPN 3.0」を開発し発売した。この間に、中国市場でも事業展開も進めている。

 この約7年間に、ソフトイーサは成長に応じて資本金を段階的に増やし、2010年3月時点では資本金が4430万円に達した。2006年8月には、同社社長に原哲哉氏が就任し、経営態勢を固めた。原氏は月刊アスキーの副編集長を務めていた方である。この少し前に、登氏は代表取締役会長に就任した。現在は、肩書きを「代表取締役」と表記している。現在の実態はCOE(最高経営責任者)である。

 ソフトイーサはその社名の通りに、ソフトウエア事業を中核事業とする会社だ。現在でも、「事業売上げの80%以上をソフトウエア事業で稼いでいる」という。しかし、登代表取締役は好奇心の塊だ。2008年11月に同社は「HardEther(ハードイーサ)広域ギガビットイーサネット専用線サービス」事業を始めると発表した。そして、翌月の12月から同サービス事業を始めた。

 同イーサネット専用線サービス事業を始めた直後に、つくば市の本社事務所(当時)をたまたま、訪れた時は、同サービス事業が「さまざまなノウハウの塊である」と、登代表取締役はケーブル線を片手に熱心に説明してくれた。登代表取締役がイーサネット専用線サービスを本気で手がけると、こんな風に巧みに工夫を重ねることによって、優れた“解”を見つけることができるという感じだった。独創的な技術・サービスを開発し、その後に事業戦略を練る雰囲気だった。

 既存企業の研究開発では現在、「事業モデルを考えない研究開発は事業としては成功しない」といわれている。ただし、時代を先取りした本当に独創的な技術・サービスの基盤技術を開発した場合は、先行している分だけ、事業モデルを考える時間があると、ソフトイーサの事業展開は伝えている。このことは、QUMA技術の開発でも踏襲されている。