課題はコストと作物の種類

 このようにメリットが多い植物工場だが課題もある。高コストであることと、作物の種類に制限があることである。

 植物工場の施設費用は、おおむね「100坪(=約330平方メートル)の工場で1億円ほど」(佐賀県三養基郡で植物工場を運営するニシケン アグリ事業部 第一営業課 課長の熊本浩氏)だという。施設への投下費用を回収するために、販売する野菜の価格にもそのコストが反映されることになる。一般的な露地物の野菜と比べると、植物工場で生産した野菜は数十%以上割高になることは珍しくない。このため、高級スーパーマーケットやレストランなどの外食産業、ネット通販などが植物工場による野菜の主な販路となっている。

 作物の種類に関しては、上述のコスト高による採算性と水耕栽培という方式による制約が大きい。このため、リーフレタスやサラダ菜など、いわゆる葉物が、植物工場で現在生産されている野菜の大半を占める。ただし技術的には、様々な野菜を植物工場で栽培することが可能だ。植物工場で生産した野菜を横浜の直売所やレストランに供給するキーストーンテクノロジーで代表取締役社長を務める岡崎聖一氏は「お米も植物工場で生産できる。問題はコストだけ」と言う。

民間の資金や知恵を活用し植物工場の導入を

 東北の復興を考えると、植物工場を活用するにはコスト面での早急な対策が欠かせない。この流れを加速するには、政策による後押しも必要である。例えば、資金の投融資などにおける制度設計や特区指定による規制緩和などだ。しかし、被災地の早期自立を促すためには、政府や行政がささいなことにまで干渉すべきではない。あくまでも、民間を主体として資金や知恵を活用することが望ましい。

図3●千葉大学柏の葉キャンパス(千葉県柏市)にある植物工場 (写真:「柏の葉キャンパスシティ」の2011年7月12日付発表資料)
図3●千葉大学柏の葉キャンパス(千葉県柏市)にある植物工場 (写真:「柏の葉キャンパスシティ」の2011年7月12日付発表資料)

 実際、福島県南相馬市や仙台市などではスマートシティやエコタウンを建設し、植物工場を導入しようという動きが民間主導で既に始まっている。先例もある。千葉県柏市の「柏の葉キャンパスシティ」や北九州市などのスマートシティプロジェクトでは、植物工場を活用した地産地消と低炭素化を特徴として打ち出している(図3)。

 資金調達で参考になるのは、仙台市のアイリンクが立ち上げた「三陸牡蠣復興支援プロジェクト」による「復興かき」オーナー制度だ。このプロジェクトは、賛同者が1口1万円を支払って復興かきのオーナーとなり、出荷できるようになってから所定数量のかきを受け取れるというものである。同社の公式サイトによれば、2011年8月28日現在の申込者数は1万8000人を超え、約9400万円の資金によって三陸地方のかき生産者の復興支援が進められている。東北地方に導入する植物工場でも、こうしたオーナー制度の活用などの工夫や新しいビジネスモデルの適用が期待される。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。