「残念ながら、原発の周辺市町村の市街地は、人っ子一人いない『死の町』だった」
「日本人のアイデンティティーは我欲。この津波をうまく利用して我欲を1回洗い落とす必要がある。(大震災は)やっぱり天罰だと思う」

 最初の発言は、鉢呂吉雄元経済産業相が9月9日の記者会見で、前日に視察した福島県の東京電力福島第1原発について述べた言葉です。更に、記者に対して「放射能うつしてやる」と発言したことがダメ押しになり、鉢呂氏は大臣就任からわずか9日で辞任に追い込まれました。

 一方、後者は石原慎太郎東京都知事が東日本大震災の直後に語った言葉です。この発言に対しても多くの批判を受け、石原氏は発言の撤回と謝罪に追い込まれました。しかし、石原氏は震災から一カ月後の4月10日の東京都知事選挙では、2位以下に大差をつけて再選を果たしました。

 石原氏は中国を支那と呼んだり、「三国人、外国人の凶悪な犯罪」や、「これを書いたのはIQが低い人たち」という発言など、物議を醸す発言を過去に数々行ってきました。しかし、発言が問題になるたびに多くの批判を受けても、石原氏は辞任に追い込まれることもなく、選挙に当選し続けてきました。石原氏と鉢呂氏の違いは何でしょうか?

 石原氏の意見には賛否の両論があると思います。むしろ、多くの場合は、言っていること自体は決して良いとは私も思いません。しかし、石原氏の過激な発言には、少なくとも石原氏の生きざま、経験、信条が強烈すぎるくらい、反映されている。良くも悪くも、石原氏の言葉には力を感じます。一方、鉢呂氏の「放射能うつしてやる」発言には何もない。薄っぺらい、ただの軽薄な失言に聞こえてしまいます。

 政治家だけでなく、私たちにとっても、「言葉の力」は重要です。どのような発言をするかによって、自分が他人に与える印象は大きく変わります。言い方を失敗することで、上司や部下の信頼を失ったり、顧客を無くしてしまうことさえもあります。逆に、言葉によっては人を奮い立たせることもできます。

 では、どうすれば「言葉の力」を養うことができるのでしょうか。ビジネス書を参考にして、プレゼンテーション力を磨けば良いのでしょうか。表面的なプレゼンテーションのスキルはちょっとした努力で身につきますが、本当の意味での「言葉の力」は、その人の生きざま、経験、信念を反映する。簡単なテクニックで身につくものではないと私は思います。