(3)価値観力の基礎とは

 こうした価値観から学ぶことは、一人ひとり「自分の価値を大切にして生きる(生活する)」ということでした。私たちは自分が納得する価値観で、自分の生きる道を選び、自分の意思で決断しなければなりません。それが責任を持つ態度になるのです。

 価値観力とは自己の信じる価値で、ぶれることなく意思決定していく基礎力なのです。信念と言ってもよいかもしれません。人生哲学(フィロソフィー)と言う方もいるでしょう。生き様の基礎はこの価値観にあるのです。

 私の家は父母が共働きで、私は母方の祖母に育てられましたが、「働かざる者、食うべからず」「稼ぐに追いつく貧乏神なし」「上見て暮らすな、下見て暮らせ」「一粒の米も大切に」「弱いものをいじめるな」などの価値観を刷り込まれました。

 これが人生のバネとなって、常にまじめに働きました。決してぶれませんでした。これは祖母が付けてくれた価値観力のおかげだと思って、今は亡き祖母に感謝し続けています。

(4)価値観力の育成へ

 企業においても、新入社員たちに会社での価値観を教えますが、こうした教育が価値観力を育成し、ぶれない意思を持って、大切な場面で意思決定をすることになると思います。その基礎には、働くことの大切さの理解、まじめな生活態度の維持、希望に向かう意思、協調精神、思いやりなどを前提にしながらも、社員は一人ひとり独立した人格を持ち、明日を目指して前進するのです。

 会社によって違いはあるでしょうが、仕事場には実にいろいろな心得の表現があります。いくつか例を挙げてみましょう。「仕事は一人でするものではない」「常に組織で対応せよ」「ほうれんそう(報告・連絡・相談)を忘れるな」「原価意識を持て」「TQC(仕事場での問題解決)活動を推進しよう」「4S(整理・整頓・清潔・清掃)運動を徹底しよう」「3ム(ムリ・ムダ・ムラ)を無くせ」など、いろいろとあります。すべて、背景には価値観があります。

 この価値観力という基礎力の育成は、最近やや薄れているのではないでしょうか。家庭教育や学校教育、社内教育、社会教育などで、これをもっともっと重視すべきでしょう。

 会社や職場、あるいは家庭によっては、一種独特な価値観を強制するところもありますが、世間に対して、多くの人々に対して、他の企業に対して、経験豊富な高齢者に対して、未来を託す子どもたちに対して、公表して恥ずかしくない価値観なら大丈夫です。コンプライアンスの考え方も、このあたりから出ているのでしょう。

 大切なことが一つあります。それは一人ひとりが「なぜ(Why)?」という疑問を心に問うことです。そして、考えてまた考えて、納得のいく答えを自力で見つけ出すことです。決して、他人の受け売りや周囲の雰囲気に流されてはなりません。確固たる信念を心に植え付けなければなりません。その土台があってこそ、「価値観力」が育つのだと思います。