そうした間違いを防止し、前提を正しく認識したうえでミッションを定義・伝達するためには、まず「傾聴」を意識し、部下の報告の前提や背景を探り、把握し、意思疎通を図る事が必要とされる。その重要性が、トップ技術マネージャーと一般的な技術マネージャーの差として現れていると考えられる。

図8: 一般マネージャーとトップマネージャーのリーダーシップ詳細比較
[画像のクリックで拡大表示]

 リーダーシップにおけるトップ技術マネージャーと一般的な技術マネージャーの差異の特徴は、特に「一体化のための目標共有」と「迅速な判断・決断」である。(図8参照)

 一体化のための目標共有、すなわちメンバー全員が一体となるための目標を共有できている状態のために必要な事は何か。まず目標の設定が必要であり、さらに共有のための働きかけが実践出来ているかも重要な要素である。

 目標の設定・共有のためには、組織のミッション「性能を達成させる」「コスト目標を達成させる」「納期を守る」といった大目標から詳細化し、自チームの定義、最終的には部下のミッションまでの整合性が求められる。

もちろん、すべて技術マネージャーが定義するのではなく、部下自身に定義させる事でもあるが、ミッション定義の実践をフォローし、コミットさせる事がチーム一体化のための目標共有となる。

 この目標の共有が出来ていないとパフォーマンスが発揮されない。特に、部下でもあり上司でもある中間マネージャーが「指示されているからやっている」となってしまうと、その部下は「指示され仕方なくやっている人からさらに"指示"された我々は一体何なのか?」とさらに自分自身の業務の意義を見失い、俗に言うやらされ感で業務を行う事になってしまう。

 各層のマネージャーは、部下・メンバーへ接する時は、決して「指示されているから」ではなく、「なぜ必要か、必要だと思うか」を自身の言葉で語りかけることを求められる。

 「何をするか明確」「私のミッションは上位目標達成に~~な理由で役に立つ」と、目標を共有出来たメンバーは、迷いがなくなり、その能力を如何なく発揮できる。

 また、トップ技術マネージャーは「迅速な判断・決断」が一般的なマネージャーと比べよく行われている。(図8参照)

 技術マネージャーの責任は大きい。情報が足りなければ、「この状態では判断できない」と、拙速な判断によるリスクを回避するのは当然である。

 しかし、マネージャーの判断保留は、その影響を受ける部下、あるいはプロジェクト全体を停滞させるリスクも発生させている。停滞したプロジェクトは納期達成のため開発終盤での追いこみがかかり、品質問題のリスクも高める事となる。これらが「判断を保留するリスク」である。

 判断が先送りされた結果、「日程が迫ったからこれで行かざるを得ない」と、実質判断が行われずに、判断保留のリスクの極大化につながることもある。

 結局、「判断するリスク」と、「判断を保留するリスク」を天秤にかけ、判断する必要に迫られる。ただ、後者はその影響が見えにくいため、軽視されがちである。その結果、「判断するリスク」を低減するために後から後から指示する事となってしまう。「重要なので慎重に」と、判断に何が必要なのかも判らなくなる事態は最悪である。

 つまり、可能な限り事前に必要な情報を明確化する事、後から必要な情報が発覚した場合はそれを明確に示す事が、「判断するリスク」と「判断を保留するリスク」双方を低減させるのに有効な手立てである。

 弊社のコンサルティングの経験でも上のような混沌とした例がなんとも多い。

 技術マネージャーは、「なぜ必要か、必要であると思うか」を自らの言葉で語り、判断に必要な情報を事前に合意し、後から必要になった情報は明確に示し、可能な限り迅速に判断を行う事が求められる。

よりよい技術マネージャー

 よりよい技術マネージャーになるためには、表層に現れる知識の積み増し以上に、行動特性の向上・変革が求められる。よりよい行動特性は、領域が変化しようとも継続的にパフォーマンスを発揮する、つぶしの効くエンジニアたる源泉であり、知識・技量を高めるエンジンでもある。

 そして、よりよい技術マネージャーに求められる行動特性は、技術者力の5つの視点のうち、特に「傾聴意識」「意思疎通」に代表されるコミュニケーション、「一体化のための目標共有」「迅速な判断・決断」によるリーダーシップの発揮であることが明らかになった。

 行動特性の変革は、知識の積み増しより本質的であるが故、時間がかかるものでもある。トップ技術マネージャーを志す、あるいは育成していく方は、よりよい技術マネージャーの行動特性のポイントを意識し、研鑽の一助として頂きたい。