写真1●すぐ目の前に台湾の金門島が浮かぶ
写真1●すぐ目の前に台湾の金門島が浮かぶ中国福建省のアモイ(廈門)市

 海を挟んで台湾と向き合う中国福建省アモイ(廈門)市。すぐ目の前には、台湾の金門島が浮かぶ(写真1)。この街で今、中国政府の強い意向を受けた低炭素都市プロジェクトがスタートしようとしている。

 清朝時代に対外開放され貿易港として発展してきたアモイは、古い港町の面影を残す南国の都市である。経済開発区に指定されてからは台湾資本の進出で経済発展が加速し、2010年の経済成長率は15%を超えたという。中心地はアモイ島で、人口は353万人に達する。人口の増加に伴い、都市はアモイ島から大陸側へと膨張し続けている。そこに新しく建設され始めたニュータウン(新城)が、今回の低炭素都市プロジェクトの舞台になる。

 発端は、中国の国家発展改革委員会だ。2010年8月に同委員会は「低炭素省、低炭素市モデルテスト事業」を始めると発表した。広東、遼寧、湖北、陝西、雲南の5省と、天津、深セン、杭州、南昌、貴陽、保定、そしてアモイの8市でモデル事業を展開するという内容である。これらの5省8市には、低炭素化の計画作成や低炭素産業の創出、低炭素技術の研究開発、ライフスタイルの転換などを促している。

 これを受けてアモイ市は低炭素都市の実現に向けた計画を作り、5~10年をかけて実践していく。具体的には現在、経済の5割を占める第2次産業の割合を減らし、金融や物流、レジャーといった第3次産業の比率を6割に引き上げる。バイオ産業やLED(発光ダイオード)産業なども誘致する。台湾の協力を得て製造業の省エネをさらに進め、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)といった先端技術にも取り組む。

 都市内の交通インフラは、BRT(バス高速輸送システム)をすでに3路線開設済みで、モノレールを新設する。生活ごみの分別収集を徹底し、リサイクルを進める。「住民の7割が低炭素都市で生活することになる」(アモイ市発展改革委員会幹部)という。

 都市計画は既に出来上がっている。研究機関の中国科学院都市環境研究所とアモイ大学エネルギーセンターの協力を得て、アモイ市建設管理局が企業などと議論した上で取りまとめた。翔安、同安、海泡、集美という4つのニュータウンを開発する考えで、資源活用や再生可能エネルギーなど40の指標を定めている。

低炭素を後押しする政策と技術に期待

 一方で、アモイ市発展改革委員会の幹部は課題をこう話す。「我々には経験も技術も人材も財政上のサポートも不足している。特に低炭素を後押しする政策と技術が重要だ」

写真2●2011年7月に中国のアモイ市で開催された「アモイ低炭素都市建設・発展日中交流会」
写真2●2011年7月に中国のアモイ市で開催された「アモイ低炭素都市建設・発展日中交流会」

 そこで、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はアモイ市発展改革委員会と共同で、2011年7月中旬、アモイで「アモイ低炭素都市建設・発展日中交流会」を開催した(写真2)。事業参加をもくろむ日本と、日本からの支援を期待する中国の思惑が一致したためだ。

 日本側は総合電機メーカーや不動産デベロッパー、設計事務所、電力会社、地方自治体、政府系金融機関などから約40人が参加。アモイ市政府からは関係部署や区政府などの約50人が出席した。

 まず、アモイ市が低炭素都市プロジェクトの概要や進捗を説明した。日本からは企業や金融機関、自治体が、国内外で手掛けるスマートシティや都市再開発のプロジェクトを紹介。中国側の関心は日本政府の支援制度や開発コスト、ごみの収集・分別に集まり、質問が相次いだ。

 中国側からは、日本のどの企業がどんな技術を持っているかを知りたいという要望もあった。日本の技術力が優れていることは知っていても、実際に自分たちが必要とする数多くの技術を日本企業に個別に接触して手に入れるというのは、地方政府の担当者にとっては重すぎる仕事だ。さらに、日本側から技術をばら売りするだけでは、アモイ側にとっては単なる技術の寄せ集めになりかねない。アモイ側の課題を解決するために、必要な技術を集めて有機的に結合させるコーディネート力が、売り込む日本企業側に求められている。

写真3●低炭素都市を目指す翔安ニュータウンの模型
写真3●低炭素都市を目指す翔安ニュータウンの模型

 交流会の後で、開発中の翔安ニュータウンを訪ねた。アモイ島から片側3車線で全長8.7kmの海底トンネルに入り、抜け出たところが翔安区だ。もともとは農村地帯だったので、開発を待つ広大な空き地が広がる。さらに進むとマンションが立ち並び、住民が行き交う繁華街が見えてくる。道路は広く、きれいに整備されている。その一角にある翔安区政府の建物の1階には、翔安ニュータウンの立派な模型が展示されている(写真3)。

 「低炭素化のためにどんな技術を導入するのか」と質問すると、翔安区政府の責任者は「これから検討する」と答えた。都市計画はできたものの、低炭素都市という高い目標に向けた具体的な取り組みは、まさにこれから始まろうとしている。これをチャンスととらえ、すぐに動くかどうかで、企業の今後は大きく分かれるのかもしれない。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。