アラブ首長国連邦(UAE)で、太陽光発電、太陽熱発電、太陽熱冷房、風力発電といった再生可能エネルギー関連のプロジェクトが一斉に立ち上がっている。同国は潤沢な化石資源を持つものの、それは外貨獲得手段として温存する戦略をとっている。そして将来、化石資源が枯渇した時代に備え、豊富な資金を投下することで再生可能エネルギーなどの新分野でも主導権を握ろうとしている。

 日本でも現政権が再生可能エネルギーの国内への導入スピードを上げる方針を打ち出しており、さらには中東などの海外市場でインフラ事業の拡大を狙うという面でも、UAEの取り組みは参考になるだろう。

 UAEが再生可能エネルギー事業に大きく舵(かじ)を切ったのは、2006年。ムハンマド皇太子の主導で「マスダール・イニシアティブ」と呼ばれる再生可能エネルギーなどの新しい資源開発の方針が打ち出され、その実施主体として、政府系投資ファンドのムバダラ開発を母体とし、アブダビ・フューチャー・エネルギー・カンパニー(ADFEC)が設立された。

 ADFECでは、(1)究極の環境未来都市を目指した「マスダール・シティ」の建設、(2)再生可能エネルギー研究の世界拠点の創設、(3)世界の再生可能エネルギー事業に投資――という三つの事業を主に進めている。このいずれの事業でも、中核になるのは再生可能エネルギーだ。

再生可能エネルギー100%の環境未来都市

図1●マスダール・シティで建設された10MWメガソーラー。5MW分は米First Solar社、残りの5MW分が中国Suntec Power社製である。研究所の各施設に電力を供給しているほか、アブダビの系統電力網にも電力を流している (写真:日経BPクリーンテック研究所)
図1●マスダール・シティで建設された10MWメガソーラー。5MW分は米First Solar社、残りの5MW分が中国Suntec Power社製である。研究所の各施設に電力を供給しているほか、アブダビの系統電力網にも電力を流している(写真:日経BPクリーンテック研究所)
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 このうち第1のマスダール・シティは、2006年から建設が進められているが、ドバイショックに端を発する資金不足などの影響で、2010年10月に事業費の縮小などの計画変更が行われた。それでも、想像を絶するような巨大プロジェクトであることには変わりはない。187億~198億米ドルの総事業費をかけて、面積約6.5km2(平方キロメートル)の土地に人口約5万人の人工都市を2020~2025年にかけて完成させる。その最も重要なポイントが、同シティ内で使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄う構想である。

 現在、同シティ内には、出力10MW(メガワット)の太陽光発電所(メガソーラー)が建設され、2009年に稼働を開始した(図1)。2011年6月にはほぼフル稼働状態になり、これまでに3万6000MWhの電力を供給した。クリーン開発メカニズム(CDM)に基づいたカーボンクレジットに参加し、これまでに2万4000トンの二酸化炭素(CO2)排出量削減に貢献した。

 当初の計画では、マスダール・シティ内にメガソーラーなどの再生可能エネルギープラントを増設して、同シティ内の電力需要を賄う予定だったが、2010年10月の方針変更でシティ外から電力供給する方式に変えた。その候補の一つが、現在アブダビ近郊で建設を進めている世界最大級の100MW太陽熱発電所「Shams-1」である。ADFECは順調に資金調達も進んでいるとしており、2012年には完成する予定だ。

太陽熱冷房システムの検証進む

図2●マスダール・シティに建設された、太陽熱冷房システムの集光型集熱器 (写真:日経BPクリーンテック研究所)
図2●マスダール・シティに建設された、太陽熱冷房システムの集光型集熱器(写真:日経BPクリーンテック研究所)
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 またマスダール・シティでは、メガソーラーのほか、太陽熱をエネルギー源とする冷房システムの検討も進んでいる。灼熱(しゃくねつ)の中東地域では、冷房需要が大きく、今後太陽熱を使った冷房システムへのニーズは高いものがあるからだ。実際、米Sopogy社の集光型集熱器、独Schneider Electric社の吸収式冷凍機を使った冷房システムが建設され、2010年夏から実証実験が行われている(図2)。同設備では、1700m2(平方メートル)のオフィススペースの冷房が可能になっており、実証期間は2年間の予定だ。

 この冷房システムの事業には、日本企業も参入しつつある。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、マスダール・シティにおける太陽熱冷房システムの実証事業の公募を行い、2011年7月27日に、同事業の実施可能性調査を日立プラントテクノロジーらのグループに委託すると発表した。今後、日立プラントテクノロジーが開発した吸収式冷凍機を用いた冷房システムを提供し、2012年12月までに実証プラントを建設し、その後1年間実証運転を行う予定である。

 日本勢は後発ながら、技術面で巻き返しを狙う。既に実証実験が行われている欧米勢のシステムは二重効用吸収式冷凍機である。これに対し、日立プラントテクノロジーのものは三重効用吸収式冷凍機なので、より高性能な点をアピールしている。