日本のお盆休みの真っただ中に発表された米Google社による米Motorola Mobility社の買収。日本円で1兆円(125億米ドル)に迫るこの超大型買収劇は中国、台湾でも当然、大きな話題となった。

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上海の都心部・人民広場にあるGoogle上海法人の入るビル。検索サービスではBaidu(百度)など地場系に押されているGoogleだが、Motorola買収を機にAndroidスマホで中国市場に攻勢をかけるか

 台湾には、Arima Communications(華冠)社、Compal Communications(華宝)社、さらに電子機器受託生産(EMS)世界最大手であるFOXCONN(フォックスコン=鴻海)社の子会社であるFoxconn International(富士康国際)社と、携帯電話の受託生産の上位3社が顔を揃えている。Google社が買収を決めた背景には、Motorola Mobility社の持つ携帯電話端末事業と豊富な特許を同時に手に入れることで、スマート端末用OS「Android」を強化、最大のライバルである米Apple社の「iPhone」に対抗する狙いがあるとの見方が大勢を占めている。

 買収が発表された翌日の8月16日には、香港市場に上場するFoxconn International社の株価は終値で前日比約13%急騰。Arima Communications社、Compal Communications社の株価も上昇した。市場関係者はいずれも、Motorola関連受注への期待を示すものだと分析。当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)でも、「グーグルの買収で捲土重来 モトローラの台湾系サプライチェーン一覧」と題して、先のODM企業3社のほか、携帯電話用キーボードのSilitech Technology(閎暉)社とIchia Technologies(毅嘉)社、送受話器のMerry Electronics(美律)社など、台湾系のサプライチェーンを一覧にして伝えた。

 ところが、Motorolaの買収と台湾のEMS/ODM企業との関連を伝える台湾メディアの報道をよくよく観察してみると、「受注が期待される」「望みがある」「予想される」等々、希望的観測に終始しているものが多いことに気付いた。「Googleの後ろ盾を得て息を吹き返すMotorolaに便乗して、台湾メーカーも進撃だ!」というような威勢のいい記事はどこにも見当たらない。

 歯切れの悪さの裏にあるものは何か。一つは、台湾の携帯電話ODM企業が、従来型の携帯電話からスマートフォンへのシフトで苦戦していること。さらにもう一つは、Motorola Mobility社が、スマートフォンの9割を自社生産していることにある。

「スマートフォンへのシフトに苦戦してるだなんて、寝ぼけたことを言うな。FOXCONN社が受託生産するApple社の『iPhone』はスマートフォンじゃないのか?」と思われる向きもあるだろう。

 ところが同じFOXCONNでもFoxconn International社は、iPhoneをはじめとするApple社の製品を一切手がけていないのだという。

 台湾の業界筋によると、Foxconn International社の主要顧客はフィンランドNokia社と日スウェーデン合弁のSony Ericsson社で、Motorola Mobilityの製品も小量扱っている。一方、Apple社の製品を担当しているのはFOXCONN社の中でもiDPBG事業群(integrated Digital Paoduct Business Group)と呼ばれる部署で、Foxconn International社はまったくの無関係なのだという。

 Foxconn International社は主に従来型の携帯電話のODM生産を手がけているのだが、昨年来、中国や台湾では、同社の不振を伝える報道ばかりが目立つ。2010年には香港市場に上場以来、初めて通年で赤字を計上。さらに今年5月末には、事業の不振により同社の韓国にある拠点で9割近い従業員を整理したと伝えられた。

 この報道に先立って、同社の陳偉良・董事長は、「携帯電話業では新たなライバル(Apple)の参入が、市場の激変を招いた。従来型の携帯電話を生産してきたメーカーは、当社も含め、いずれも厳しい状況に直面している」とコメントしている。同じFOXCONNグループにありながら、Appleの躍進に泣くとは皮肉なものだ。