今でこそ、LED照明は安価になり、家庭の電球を置き換える勢いだが、当時はまだ白色LED自体が市場に広がり始めたばかりの時代だ。それに目を付ける先見の明には脱帽する。手術用LEDゴーグルの成果は、2001年に米国サンノゼで開催された光技術関連の国際会議「Photonics West」で、島田氏が自ら世界に発信した。慣れない英語による講演ではあったが、現役医師の挑戦に会場内は拍手喝采だったという。

LED照明のベンチャー企業を設立
ヤンチャーズの製品例。
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 LEDゴーグルの開発をキッカケに、京都大学をはじめとする他大学の工学系研究者との親交を深めた島田氏は、LED照明の応用に魅せられる。研究チームの技術開発は、2002年度の文部科学省の「大学等発ベンチャー創出支援制度」で採択され、その資金を元手に研究を重ね、2005年にヤンチャーズを起業した。

 「支援制度で資金を得ても、起業していない研究グループもあります。でも、それではダメだと思うんです。今の世の中で大切なのは、少しでも面白いことをやっている、成功している事例を多くの人が知ることです。資金を支援していただいたのだから、やはりきちんと収益を上げて、税金として社会に還流するよう努力する責任がある」

LED関連で多くの特許

 ヤンチャーズの活動では、発明家としてLED関連の多くの特許を出願/取得している。その成果を製品にしたり、ライセンス供与したりすることが同社のビジネスモデルだ。「ヤンチャーズは、商品企画や技術開発に徹する会社にしたい。今、小さな会社はものづくりで差異化しにくい時代ですから」。こう島田氏は考えている。

 最近では、獣害対策用に太陽電池式のLEDライトといったアイデア商品の販売も始めた。これは昼間に太陽電池で発電し、夜間に青色と緑色の2色の光を明滅させてイノシシや鹿などを追い払うもの。「イノシシや鹿は、実は赤色を認識できず、青色と緑色しか見えないと言われている。それを思い付いて作った商品」という。

 こうした話を聞きながら「医師の仕事だけでも多忙なはずなのに、二足のわらじとはすごい」と思っていると、それを見透かしたように島田氏は、こう言って豪快に笑った。

 「二足のわらじと言われるのは嫌なんですよ」