パナソニックの薄型テレビ事業について考察した。その結果、大幅かつ大胆な軌道修正が必要と判断している。考察すべき論点は全部で6点。このうち3点は、既存の生産拠点に関するものである。具体的には、PDP生産、液晶パネル生産、液晶テレビ生産の観点で、その再編成について議論した。残り3点は、薄型テレビの販売、三洋ブランドの活用、有機ELへの投資についてである。それぞれについてわれわれ(ドイツ証券)が適切と考える方向性を提言した。

PDP生産

 現在、パナソニックのPDP生産拠点は、兵庫県尼崎市にあるP4工場とP5工場、および中国の上海工場(旧P3設備を移設)の3拠点である。これらの工場の合計生産能力(上海工場の稼働後)は、ガラス基板ベースで12万5000枚/月、42型パネル換算で117万枚/月。つまり1400万枚/年というPDP生産能力を持つ。一方、同社の2012年3月期のプラズマ・テレビ販売台数(OEMやパネルの外販を含まない)は、約600万台/年〔対前年度比(YOY)-11%〕と、われわれ(ドイツ証券)は予想する。欧米における最終需要の不振、プラズマ・テレビ業界内の価格競争の激化や大型液晶テレビ価格の低下により、苦戦を余儀なくされると見たからである。この結果、三洋電機などへの外販分を加えても、2012年3月期のPDP需要は700万枚/年となり、パナソニックのPDP生産能力を大きく下回ると見込んでいる。

 プラズマ・テレビへの需要は、2011年が1700万台/年(YOY-6%)、2012年も新興国における需要増を先進国の需要減が相殺して1630万台(YOY-4%)と、緩やかに下降していく想定をわれわれはしている。これに対し、韓国Samsung SDI社と韓国LG Electronics社がいずれも約500万台/年の生産能力を持つ。このことから、われわれの需要予想が正しければ、パナソニック製プラズマ・テレビへの需要は、600万~700万台/年程度に留まることになる。すなわち、1400万台/年という同社のPDP生産能力は、需要に対して過剰といえよう。プラズマ・テレビを手掛けるブランド自体が少ない現状では、パネル外販に依存することも難しい。パブリック・ディスプレイ分野などに向けたPDP販売に期待したいが、数量的にはあまり多くを望むことは難しい。したがって、同社は需要状況と生産最適サイズを鑑み、P4工場を段階的に閉鎖してP5工場と上海工場(旧P3)に集約する必要があると考えている。

 幸い、P5工場だけで600万枚/年程度の生産が可能である。さらにP4工場は2009年3月期に減損処理を既に実施しており、要償却資産が少ないために閉鎖に伴う損失計上額も大きくない。課題はP5工場の競争力強化である。生産能力の拡張投資を実施しない以上、部材価格の低下によるコスト削減は期待しにくい。このため、パネル性能の向上による相対的なコスト削減が必要になる。生産品目については、50型以上(ハイエンド中心)のパネル生産に特化して工場を埋めていくのか、50型以上のパネルの生産比率上昇を目指しつつも42型や46型はフルHD(high definition)パネルだけではなく部材コストの安さに着眼した42型、46型、50型のHDパネルなど「同型液晶パネルより安い」価格帯の製品を継続するのか、その決断を迫られよう。