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写真1●定置用蓄電池の生産基地を東北地方に建設しようという構想を打ち出した東京大学教授の宮田秀明氏(撮影:テクノアソシエーツ)

 太陽光発電などの自然エネルギーを貯蔵する大容量の定置用蓄電池。その生産基地を、東日本大震災からの復興を急ぐ東北地方に建設しようとの構想を、東京大学教授の宮田秀明氏が打ち出した(写真1)。

 構想を具現化するために立ち上げたシンクタンク「東日本環境防災未来都市研究会」の設立総会が2011年6月17日に東京都内で開かれ、会場に駆けつけた鳩山由紀夫前首相が「エネルギーの未来に向けた明るい技術として期待したい」とエールを送った(写真2)。

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写真2●「東日本環境防災未来都市研究会」の設立総会に駆けつけた鳩山由紀夫前首相(撮影:テクノアソシエーツ)

エネルギー自給自足を実現

 今回の構想で技術的な核となるのは、大規模な太陽光発電システムと組み合わせる定置用蓄電池である。一般に、太陽光発電の発電量は天候に左右され、夜間は稼働しないという弱点がある。

 しかし大容量の定置用蓄電池があれば、話はまったく変わってくる。晴れた昼間など、条件のよいときに発電したエネルギーを同蓄電池に貯蔵しておき、夜間や雨天など条件のよくないときに同蓄電池から放出できるからだ。エネルギーを自給しながら計画的に有効利用できる、理想に近い分散型電源システムを構築できる。

 こうした分散型電源システムを活用したモデルケースとして「環境防災未来都市」をまず東北の被災地に建設し、それを全国に広げていくことで「震災からの復興、エネルギー安全保障、環境問題、産業振興の四つの課題を一気に解決できる」(宮田氏)と主張する。

 この定置用蓄電池に使われるのが、携帯電話機やノートパソコンにも搭載されているリチウムイオン電池である。これまでは大規模な太陽光発電システムと組み合わせる定置用として、リチウムイオン電池はほとんど採用実績がなかった。一方で、大容量のリチウムイオン電池が世の中にないわけではない。2010年ごろから電気自動車(EV)の動力用に世界中の電池メーカーが量産を開始しているからだ。

 ただ今回の構想では、「自動車用と定置用では要求仕様が異なり、それぞれ特化して作った方が効率的」(宮田氏と同じグループで自動車用電池に詳しい東京大学特任教授の堀江英明氏)という考え方が基本にある。

「1GWh規模」でコスト競争力

 今回の構想の裏側には、日本の電池産業の復権が大きな狙いとしてある。携帯電話機やノートパソコンのリチウムイオン電池では、かつて日本メーカーが世界市場で圧倒的な強みを発揮していたものの、今や韓国勢や中国勢に追い上げられている。

 自動車用ではまだ勝敗に決着がついていないものの、すでに設備投資競争の様相を呈しており、厳しい戦いを強いられている状況だ。ここで定置用に特化した大規模工場を世界に先駆けて建設し、コスト競争力で世界的に優位に立つことで先手を打とうというわけである。

 東北の地を選んだのは“産業復興”という意味合いが強い。「1GWh規模からスタートすれば年間300億円の売り上げ、約2000人の雇用を生み出せる」(宮田氏)という。

 設立総会では会場から「日本が製造分野でアジア勢に勝てるのか」と疑問の声も上がったが、「電池単体ではなく、社会システムとしてブラックボックス化して勝負すれば勝ち目はある」(宮田氏)と反論した。つまり、電池というハードウエアだけでなく、それを効率よく使いこなすノウハウを含むシステムとセットで提供するわけだ。

 肝心の担い手となる電池製造会社は未定だが、「既存の電池メーカーに限らず、経営のスピード感、意思決定力のある日本企業にぜひ手を挙げてほしい」(宮田氏)とする。投資資金には官民ファンドを活用することなどを想定しているが、被災地の特区指定による税制優遇や補助金といった国からの支援も引き出したいとしている。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。