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タイトル
静止軌道ステーションにおける引力と遠心力の釣り合いを考え,地上とは逆側にもケーブルを伸ばしたりカウンタ質量を置いたりする。(図:宇宙エレベーター協会)

  ある昇降装置,それは「宇宙エレベーター」(図右)*1。赤道の上空,高度約3万6000kmに設置した「静止軌道ステーション」*2から地上に垂らしたケーブルを利用し,地上と宇宙の間を往復して人や物質を運ぶものだ。実現すれば,海外旅行並みの費用で宇宙旅行が可能になるなど,宇宙がグッと身近になる。かつては荒唐無稽と受け止められていたこの話,今では「明らかに解決不可能な課題はない」と,20年後には建造を始められると唱える研究者さえいる1)

*1 「軌道エレベーター」とも呼ぶ。
*2静止軌道ステーションは,最初に基礎部分を打ち上げ,その後は基礎部分から垂らしたケーブルを昇降するエレベータで資材を運んで完成させる。

参考文献
1)斎藤茂郎,『宇宙エレベーターポケットブック』,日本宇宙エレベーター協会,2008年11月.

  こうした壮大な構想の第一ステップと位置付けられるのが,p.17の実験だ。ヘリウムバルーンを静止軌道ステーション,テザーをケーブル,クライマーをエレベータに見立てればいい。日本大学理工学部精密機械工学科教授の青木義男氏の研究室で開発したクライマーは,排気量50ccの原付自転車用の鉛蓄電池(12V,3Ah)を搭載し,モータで駆動ローラを回転させる仕組みだ(図下)。表面に硬度40度のウレタンゴムを張った駆動ローラと,その上下に配したPOM(ポリアセタール)製のガイドローラでテザーを巻き込みながら,駆動ローラとテザーとの間で生じる摩擦力によって昇っていく。

クライマーの大きさは,高さ400×幅500mm。今回の実験で,バランスの悪さが浮き彫りに。左にモータ,右に鉛蓄電池が突き出ているためだ。こうした構造を見直しながら,今後,高速化や軽量化などを追求していく。

  実験当日は,瞬間最大風速で約10m/sを記録するなど,強風が吹き荒れる状況。その影響で,テザーの張力が変動し駆動ローラの摩擦力が安定しない中,クライマーは止まったり動いたりしながら,テザー頂部まで100m以上の距離を約100秒かけて昇り切った。速度の当面の目標である2m/sには届かなかったが,「自力で昇れたことは大きな成果だった」。

  こう語る青木氏らは,宇宙エレベーターより先に,成層圏プラットフォームへの実用化を考えている。高度10k~50kmの成層圏で無線通信や太陽光発電の基地などとして機能する飛行船に,物資を運ぶエレベータである。天を目指し,改良はまだまだ続く。