今回紹介する書籍
題名:打捞中国愤青
作者:廖保平
出版社:北方文芸出版社
発行日:2010年10月

 今回取り上げる書籍の題名は『打捞中国愤青(直訳:中国の憤青をすくいあげろ)』。ビジネス書というよりも社会問題を扱った評論と言った方がいいだろう。「憤青」というのは「憤怒青年」の略で、「怒れる若者」という意味だが、これは「キレる若者」という意味ではなく、一定の思想を持ち社会や体制に対して怒りを感じている若者を指す。日本にもインターネットの世界では「ネトウヨ(ネット右翼)」という言葉があるがこれに近い存在と思えばいいだろう。

 本書から「中国の憤青」の特徴をご紹介しよう。本書では「百度百科」(ウィキペディアの中国版のようなもの)からの引用を用いて次のように説明している。

 「憤怒青年」という言い方は1970年代の香港に既に存在しており、特に社会の現状に不満を持ち、急激な改革を求める青年を指した。その後、彼らは「憤青」と呼ばれるようになったが、「憤青」はその後中国大陸のネット上での専門用語となり、本来の呼び方はあまり使われなくなった。

 憤青は普通20~30歳の若者で、インターネットユーザーが多く、その大半が学生、特に大学生で、大変狭隘(きょうあい)な民族主義的思想を持っている。これは、中国経済が急激に発展する過程で、インターネット時代となってからの中国に見られる特殊な現象である。

 ネット上で活動する狭隘な民族主義的な思想という点で、日本の「ネトウヨ」と共通するが、「憤青」はネット上だけで活動するのではなく、デモなどで自らの主張と感情を表現する。今まで、我々がテレビニュースなどで目にしてきた「反日デモ」などにいる若者たちだ。では、彼らはどういう若者なのだろうか。本書では憤青の歴史、精神構造からはじまり、憤青の存在が現在の中国にどのような害悪を及ぼすか、などを考察している。

 しかし、特筆すべきは、著者が憤青について深い考察を加えていることだけではない。著者は一部の過激な憤青を批判するだけなく、中国の現体制の問題点なども指摘している。今まで中国の評論と言えば政府の顔色をうかがうようなものが多いという印象であったが、私は本書を読み、ここまで自由かつ冷静な評論が中国社会で受け入れられているのか、と新鮮な驚きを感じざるを得なかった。例えば、民主主義を推進すべきだと発言したり、選挙に言及したりするなど、体制批判ともとれる内容もあるが、堂々と著者の意見が述べられている。

 次回は、本書に基づいて、憤青についてより深く紹介していきたい。彼らについて知ることで、ニュース番組でよく聞く「中国のネットでは○○と言われています」というセリフのより深い部分が感じられるようになれば、と思う。