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新 誠一=電気通信大学教授
2011/07/05 09:00
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 どこに工場を作るかは1985年のプラザ合意後の円高不況からの長年の課題である。そして,東日本大震災後の復興におけるキーワードの一つである。復興に限定すれば,地元,西日本,海外の三択であり,それぞれの会社がそれぞれの選択を決めたところであろう。ここでは,もう少し大きな視野に立って考えていこう。

 工場立地の基本は原産地,消費地である。鉄鉱石や石炭などの主原料がとれる場所の立地または製造された製品が消費される場所に工場を作るのなら,立地理由は明確である。しかし,日本は特殊で加工貿易が主と学生時代に習った。原産地でもなく,消費地でもなく,その途中で製造していることが立地に悩みが生じる原因である。

 加工貿易モデルで成功していたときは悩まなかっただろう。成功のお陰で生活水準が向上したことが立地への悩みにつながっている。加工貿易なら,日本でなくても設備を揃えれば作れる。実際,工場の海外進出は盛んであり,中国,台湾,タイ,韓国,インドネシアなどが加工貿易モデルで台頭している。台頭は逆に言えば,日本における製造業空洞化の恐怖であり,それが立地への悩みの根幹となっている。

 一つの戦略は加工貿易モデルからの脱却である。会社によって製造は海外,設計は国内という戦略をお持ちの所もある。しかし,このような戦略にすべての会社が納得しているわけではない。いずれ設計も海外に出ていくという恐怖をお感じのようである。

 国内に留まる選択をされている会社もある。このような選択ができる会社は独自技術をお持ちのようである。汎用部品を集めて組み立てることは世界中でできる。しかし,キーコンポーネントを内製している場合は,この限りではない。実際,何でも見せてくれるが巻き線機だけでは見せてくれないセンサメーカーがあった。部品や製造装置の内製力は国内に留まるときに必須だろう。

 日本は資源に乏しいと耳にタコができるほど聞かされている。しかし,排他的経済水域は世界6位である。原産地に工場立地はということであれば,海または沿岸部が一つの解である。次に,工場立地が消費地ということであれば,消費地としての日本を考えなければならない。ここは1億人の消費地である。もっとも,この規模に甘えてガラパゴス化したと揶揄されている。ここは世界中の100億人の消費者に影響を与える消費地としてアピールすることを考えないと消費地に立地した国内工場とはいえない。

 実はグルメガイド,ミシュランでもっとも星の数が多い都市が東京である。ここを抱える日本は世界一のグルメ大国である。3.11までは世界で一番便利で,世界で一番清潔で,世界で一番安全な国であった。中国,台湾,韓国などの隣国だけでなく,クールなジャパンに憧れる方は世界中に多い。日本は消費の発信地であり,製品を消費者と作っていくというスタンスであれば,日本に工場を作ることはとても戦略的である。

 以上,原産地,消費地という視点から工場の国内立地を考察した。次に,改めて加工貿易モデルの発展形として国内立地を再考しよう。

 アルビン・トフラーによれば,生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)の一体化が始まるそうである。これをプロシューマーと呼ぶそうである。慧眼である。これまで,生産者は工場におり,消費者は街にいた。一体化するとは,工場と街が一体化することになる。すなわち,街に工場が出向くことになる。

 さらに,街は原産地でもあることをトフラーの見方に加えたい。消費とは消えることではなく,破棄物を生み出す行為である。トフラーの予言通りプロシューマー化するのであれば,それは消費者の身近で生産する工場でなければならない。消費者の身近で生産するなら,原料も身近で調達する必要が出てくる。それは,街中での循環型生産システムということになる。

 塀に囲まれて工場と街が分離している姿が20世紀型なら,消費者の要望に素早く対応する21世紀型工場は塀を無くさなくてはならない。街に溶け込む工場は,溶け込めるサイズでなければならない。人の傍にいる工場とは,工場自体が見えなくなることのように思う。それは工場の喪失といえるし,究極の加工貿易ともいえる。

 以上,工場立地を多角的な観点から考えてみた。国内立地に向けてのこじ付けかもしれない。いいでしょう,人と同じでは戦略とはいえない。天の邪鬼と言われて,はじめて価値がある。いずれにしても,工場立地を20世紀型で考えている時ではない,既に2011年も半分終わってしまった。過去の成功体験を捨て,21世紀で生きて行こう。

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