6月のEMS/ODM業界は、台湾Acer社、台湾ASUSTeK Computer社など台湾系メーカーをはじめとするPCブランド陣営が、米Apple社の「iPad」に対抗する多数のタブレット端末を展示したコンピュータの国際見本市「COMPUTEX TAIPEI 2011」(5月31日~6月4日)で幕を開けた。また同20日にはノートPC受託生産で世界第2位の台湾Compal Electronics社が、これに先立つ5月27日にはODM大手の台湾Inventec社が、いずれも重慶に生産拠点を設立することで現地政府と相次いで正式に契約を締結した。これで重慶には重慶市当局の言う「3+6+200」、すなわち三つのブランドメーカー(HP、Acer、ASUSTeK)、六つの受託生産業者(フォックスコン=FOXCONN、Compal、台湾Quanta Computer社、Inventec、台湾Pegatron社、台湾Wistron社)、さらに200社を超す部品メーカーが既に進出を決定。ノートPC生産の新たな世界拠点としての体制を急速に整えつつある。

 こうしてPC関連の華やかな話題があった一方で、6月はEMS/ODM業界で「ノートPC生産からの撤退」が急浮上した月でもあった。

 発端となったのは、フォックスコンに次ぐEMS大手のシンガポールFlextronics社が、ノートPC受託生産からの撤退を示唆したこと。複数の台湾紙の報道によると5月下旬、同社のマイク・マクナマラ最高経営責任者(CEO)は米国で開催されたIT関係のフォーラムで、「当社は2012年分について、受託生産の入札を放棄し市場から撤退するかもしれない」と表明した。撤退の理由は利益の薄さ。同氏は、「ノートPC受託生産は利潤が低過ぎる。ノートPC産業の平均利益率は当社が参入した当時の3%から直近では1.5%まで下がった。当社の業績はこの水準にも達していない」と述べたという。

 業界筋によると、ノートPC受託生産業界には、長くこの産業にかかわってきたCompal、Quanta、Inventec、Wistronの主要ODMメーカーに加え、数年前からフォックスコン、FlextronicsなどEMSメーカーが参入。7社に拡大したメーカー間では、EMSメーカー主導による価格競争が激しさを増した。加えて、原材料の値上がりや台湾の通貨NTドルの高進、製造拠点である中国の人件費高騰などコストが増加。さらに、タブレットPCの急速な台頭によって、ノートPC、中でも機能を絞ったネットブックの成長が明らかに鈍化している。これらの要素が重なった結果、「ノートPC受託生産チェーンは、ほとんど利益を出すことができない産業になってしまった」との認識が、業界の内外で広まっている。

 このような情勢下、台湾や中国の業界では最近、ノートPCの製造を「如同鶏肋」、すなわち「ニワトリのろっ骨のようなもの」と形容することが多くなっている。「NB(ノートブック)産品如同鶏肋、食之無味、棄之可惜」、つまり「ノートPCはニワトリのろっ骨と同じで、食べても味はないのだが、しゃぶればいくらか味はするので捨ててしまうには惜しい」という意味だ。台湾の業界筋は、「業界では今、下流のシステムメーカーから部品メーカーまで、『誰がいち早くNBから逃げ出すか』を競うような風潮がある」と話す。

 こうした中、5月31日には、Compalの陳瑞聡・総経理が、「フォックスコンがノートPC受託生産から撤退するのでは」という爆弾発言をした。

 COMPUTEX TAIPEI 2011に出席した陳氏は、受託生産業の見通しについて、「AppleはiPadにおいて、ハードウエア自体の売上総利益率は2割程度に抑えているが、コンテンツではそれを上回る利益を得ている」と指摘。「このような状況を見ると、ODMメーカーは経営のモデルチェンジが必須だ。従来の運営方式は既に時代遅れだ」と強調した。その上で、FlextronicsがノートPC受託生産からの撤退を示唆したことを取り上げ、「Flextronicsに続いて、もう一つのEMS大手も恐らく出ていくだろう」として、フォックスコンをはじめとするEMS企業がノートPC受託生産から撤退するとの見方を示した。この発言を受け市場や業界では、フォックスコン撤退の可能性が盛んに議論されることとなった(次のページへ)。