どうして中国発が可能になったのか

 世界的に見ると、VCDが中国で生まれた原因は、中国企業の技術力が強かったわけではなく、VCDの技術寿命は長くないと日本企業が判断したという背景があったわけだ。VCDは移行製品に過ぎないと位置づけ、VCDという製品を作り出さなかったことは、中国企業にとって、一つの大きなビジネスチャンスとなった。中国企業は、この千載一遇となる機会をつかんだのだ。

 技術の視点から見ると、光ディスク・プレーヤーの誕生には下記の3種類の技術が必要となる。

(1)基礎技術(光ディスク蓄積技術、信号処理技術など)
(2)デバイス(チップ、光学ピックアップなど)
(3)システム・インテグレーション(アプリケーション、設計、製造)

 通常は(1)が研究され、その後(2)では(1)の基本技術をデバイスで実現する。さらに(3)のフェーズにおいては、商品コンセプトに基づいて応用アプリケーションを開発、商品設計と製造を経て、商品を世の中へ売り出す。つまり、(1)→(2)→(3)のプロセスで、技術の主導権により、イノベーションの主導権を持つことができる。

 しかし、VCDプレーヤーに関して基礎技術とデバイス技術をもっていない中国企業は、中国市場への深い洞察力をもって、日本企業に見捨てられたVCD技術を活用。グローバルに連携することで、必須となる(2)を上手く調達し、自分なりのシステム・インテグレーション力によって、VCD製品の企画、設計、開発、量産、プロモーションといった新商品イノベーションのプロセスをやり遂げた。そして、いち早くVCDプレーヤーを創り出して、中国市場へ投入し、中国のVCD市場を創出した。まさに、通常のイノベーションとは逆のプロセスとなったのだ。その後、膨大な中国VCD市場に惹かれて、海外メーカーも追随する構図となった。コア技術がなくても、そして資発金力や市場推進力が大きな大手企業でなくても、他国と他社の技術を有効に利用すれば、イノベーションを起こせることが証明された。

 商品をアーキテクチャからみると、大きくはデバイスとシステム・ソリューションで構成される。商品の性能と機能を決めるのは、デバイスだけではなく、デバイスを動かすシステムソリューションが最終的に商品の性能と機能を決めるのに大きく貢献する。同じ商品コンセプトでも、国によって性能や機能が違う。VCDやDVD市場においては、海外のメーカーもVCDとDVDプレーヤーを中国で販売したが、売れているのは中国メーカーからのものが多かった。価格の要因も大きいが、それ以外に中国ならではのニーズに対応した機能が付いている。例えば、中国においてVCDが市場投入された後、品質が悪い海賊版ディスクが多く発売された。それに対応するエラー訂正機能を持った機種が中国メーカーからは売られている。その国の消費者に受け入れやすい商品のシステムソリューションは、新興国の企業としては、デバイス技術を持つ海外メーカーと競争するためのよい切り口となっている。

 まとめると、VCDが中国で成功できた大きな要因は次の三つと考えられる。

・ 市場の洞察力→ 外国に見捨てられた技術を活用し、中国市場のニーズに合致する商品価値の創出
・ グローバル・リソースの活用→ 必要なデバイスの調達
・ インテグレーション力 → ハード、コンテンツを含める商品システムの設計と製造

 中国発でVCDが成功したのは、世界中からデバイス技術を調達することができたことが重要なポイントである。システム・ソリューションやインテグレーションは重要である一方、その実現にはデバイスが欠かせない。海外メーカーから入手できるデバイスがなければ、中国でのVCDの創出と普及は有り得なかった。実際、既存技術のデバイス部品については、デバイスメーカーの利益のためにデバイスが提供される。新しいチップを開発するベンチャーメーカーは、チップの性能の検証のためにも、セットメーカーと連携したい。万燕は、最終的にアメリカのベンチャー企業、日本企業、欧州企業から、必要な重要な部品をすべて調達できた。

 VCDの次となるDVDやBlu-rayにおいては、市場を開拓したのは、やはり基本技術とデバイス技術を持つ日本メーカーだった。その意味では、基本技術から商品開発までを含んだ、真の中国発のイノベーションはまだである。中国発のVCDは、技術主導のイノベーションではなく、中国における価値創造のイノベーションと言えるだろう。