今年1月に米国調査会社であるIDCが発表した2010年第4四半期の世界の携帯電話市場シェアの調査によると、出荷台数の第4位はZTEである。日本市場においても、昨年から存在感が一気に高まっている。昨年の年末、ソフトバンクはZTE製のスマートフォン「Libero SoftBank 003Z」を発売した。重さは約110gで、同社Android搭載スマートフォンの中で最軽量のモデルだった。さらに、同じソフトバンクからZTE製で子供や高齢者の安全対策に特化したボタン1個の携帯電話(みまもりケータイ)が今年3月に発売された。緊急時、子供がボタンを押すだけで母親に連絡でき、通話後、GPSによる子供の位置情報が母親にメールで届く仕組みである。

 ZTEが携帯電話事業に参入してから10数年、日本の携帯電話メーカーは携帯電話の先端技術を持つにもかかわらず、相次いで中国などの海外携帯電話市場から撤退、いわゆる「ガラケー」で日本市場での生き残りを賭けている。この10年間は、ZTEをはじめ華為(Huawei)、レノボ(Lenovo)などの中国メーカー、そして韓国のSamsungとLG、および台湾のHTCが急成長している時期でもある。現在、ついに日本の携帯電話市場の牙城も崩れて、アップルだけではなく、ZTEやSamsung、HTCなどにも侵食されている。世界の携帯端末市場でも注目されているのは、iPhoneで代表されるアップルの商品軸、そしてアンドロイド陣営の商品軸以外に、中国ならではの発想で生まれつつある新たな商品軸なのである。

 「リンゴの皮」といったような発想は,日本メーカーではどうなるだろうか。製品化されるだろうか。恐らくアイデア段階で消えてしまうのではないだろうか。なぜなら、まず“グレイゾーン”に対する姿勢が違う。日本の場合、厳しい規制と過剰なルールに縛られ、「リンゴの皮」のような発想は商品化までいきつかないのではないか。ZTEは、よく研究し、アップルから訴訟されるリスクを回避する方法を工夫し、脱獄なしのZTE Peelを開発した。こういった商品は、消費者の欲求、渇望を満たすことから始まっている。単に技術主導で商品を進化させることだけではなく、常に顧客視点に立ち、どのような商品が市場にインパクトを与えるのかを見極め、開発を行ったのがZTE成功の大きな要因だと思われる。ZTEはそういった方針で、高機能のスマートフォンだけに力を入れるではなく、各国の様々なニーズを洞察し、一見、誰でも作れるシンプルなみまもりケータイやZTE Peelを、いち早く作り出して市場へ投入した。

 その背景には、規制やルールのグレイゾーンに大胆に挑戦する意欲、発想やノウハウ、技術をいち早く吸収する巧妙な学習力、深圳市のように世界最大級の電子製品産業集積地としての豊富な人材力がある、イノベーションが起きる環境が出来上がりつつあるのだ。携帯電話産業においては、中国は急速に世界のイノベーション発信源の一つとなりつつあるであろう。

 新しい発想があっても、また優れた試作力があっても、意思決定の遅れで売り出せないことが多い日本と比べて、圧倒的に早く、安く市場へ投入できることも、中国発のイノベーションの真髄といえるだろう。それを実現するためには、常に高いモチベーションを維持しつつ、仕事に取り組む環境を整える必要があるのは言うまでもない。ストックオプション制度などのインセンティブ・プランが中国の多くの民営企業や上場企業では実施されている。

 こういった中国発のイノベーションについては、常にグローバルな視線で企画と開発に力を入れているという特徴がある。みまもりケータイが一番先に発売されたのは、中国ではなく日本である。ZTE Peelは、アメリカで先行的に発売した。特に後者は、中国ならではの発想だったが、アメリカ市場へ投入した。新興国に存在するニーズは先進国でもあるということだけではなく、そこには中国ならではの実情もある。何か有望な新商品が発売されると、間もなく大量に模倣され、正規メーカーが儲けられなくなる。そうなると研究開発への投資もできなくなり、イノベーションの誕生を阻止する要因となる。ZTEが先進国市場を重視するのは、その背景とも関係している。

 深圳の若者による「リンゴの皮」、そしてZTEのZTE Peelは、いずれもアップルの製品に依存しており、付属品としての存在を否定できない。活気が溢れる中国の携帯電話産業では、ZTEのような技術力やマーケティング力が強い企業による牽引で、今後「リンゴの皮」を越えた新たな「リンゴ」も生まれるかもしれない。先日、世界知的所有権機関(WIPO)の発表により、ZTEが2011年度第1四半期の国際特許出願件数で世界第1位になったという報道があった。今後、ZTEをはじめ、中国企業成長の勢いがさらに拡大すると予想される。