「リンゴの皮」については、その後、市場から忘れられたようにみられていた。ところが昨年の年末に、中国の携帯電話メーカーに関するニュースが業界を驚かせた。アメリカの携帯電話会社Sprintのプレスリリースによると、同社は2010年11月14日からiPod touchで3G(第3世代携帯電話)データ通信が可能になる「ZTE PEEL(Peel=皮)」という製品を発売した。

 ZTE PEELはiPod touchに装着するケースのような形状をした通信アダプタであり、iPod touchをセットして電源ボタンを押すと、3G通信を無線LANに変換し、iPod touchの無線LAN機能で通信できるようになる。iPod touchがどこでもインターネットと接続できるようになった。モバイル無線LANルーターがiPod touchのケースの形となった端末とも言える。iPod touchに3G通話機能を実現するわけではないので、「脱獄」も必要がない。

 ZTE PEELは、「リンゴの皮」の発想を真似て作られたとの声もある。確かに、カタチやネーミングなどからすると、その可能性が全くないわけではない。いずれにしろZTEは、iPodを“iPhone化”するというニーズに対して、リスクが高いからといって退避するのではなく、そのニーズを十分認識して取り組んだ。その結果、正規メーカーの開発力と商品力で「リンゴの皮」の発想を実現し、脱獄を避けることでアメリカの携帯電話会社から発売されるまでの新商品を生み出したのだ。

 この商品を開発したZTE(中興通迅)をよく知らない方も多いかもしれない。ZTEは、1985年に設立、中国の深圳市に本社を置く。現在、社員数は7万人以上、その30%はエンジニア、売り上げの10%は研究開発に投じるハイテク企業である。元々通信設備のメーカーであったが、10数年前から携帯端末事業に参入した。

 携帯電話については、中国メーカーはOEM製品、そして「山寨携帯」注1)といった模倣品しか作れないと思う人が多いかもしれない。現実には、大量の山寨携帯を作り出した数えられないほど多くの中小メーカー以外に、ZTEのように相当な技術力を達した大手携帯端末メーカーも少なくない。

注1)山寨携帯とは中国語で模倣携帯電話機のこと。日経BP社の電子書籍『山寨革命』に詳細な紹介がある。

 ZTEは、携帯電話市場に参入した後、先進国の既存技術を利用し、主には模倣とOEMにより資本、開発力、マーケティング力を高水準に引き上げ、そして自社ブランドによりグローバルへと展開している。先進国の他社製品に対してリバース・エンジニアリングで構造や機能を解析し、一部の機能などを組み合わせて自社で設計開発を行い、組み立てて生産する。近年ではさらにレベルアップ、高い技術レベルに到達し、市場ニーズを素早く発見、迅速に設計と開発を進めることで、世界トップメーカーの総合力に近づいている。