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新 誠一=電気通信大学教授
2011/05/10 09:00
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 クラウド,クラウド,クラウド。世の中はクラウド流行りである。クラウドはスケーラブルなシステムを作りやすいし,システム管理をクラウド側にお任せできるなどのメリットがある。だから,製造業にもクラウド利用という話が出てくるのは必然である。しかし,新し物好きの製造業,同時に保守的である。リアルタイムでものづくりをしている現場で通信回線が切断されたら使えないとか,クラウド内に蓄えられた製品レシピなどの重要データが流出したら困るとか,心配の種は尽きない。そのため,製造業におけるクラウド利用には後ろ向きであった。それが,3.11,東日本大震災で様相が変わった。

 製造業では制御アルゴリズムや製品情報をローカルに持ちたいという強い願望がある。即応性や安全性を考えれば,もっともである。しかし,津波で工場が丸ごと流されてしまうと事業が継続できない。生産機械は買い集めれば同じ生産ラインを別な場所に構築できるかもしれない。しかし,その機械を動かすためのアルゴリズムや製品ごとに違うレシピは生産会社固有のものである。ローカルな情報保持だけでは,生産を再開できない。

 BCP(Business Continuity Plan)という視点に立つと,このような生産情報は工場以外の場所にバックアップしておく必要がある。もっとも,どこに保存してもクラウド利用と同じ情報漏えいの危険性が生じる。つまり,情報漏えいへの懸念はクラウド特有の問題というよりは,バックアップの問題である。そして,BCPという視点で考えれば,バックアップは避けて通れない。すなわち,ローカルだけに保存しておけばよいというものではなく,バックアップ策を講じするとともに情報漏えい対策を講じなければならない。

 クラウドへの残る抵抗ラインは通信利用である。通信は切れるものである。だから,生産を継続するためには情報をローカルに置く必要がある。特にリアルタイムで利用される情報は生産機械そのものに置く必要がある。つまり,ローカル情報とバックアップ情報と情報を二重化する必要がある。

 これまでの二重化の多くがバックアップである。すなわち控え。主戦が元気なうちは不要のものである。事故が起こらなければ無駄。すなわち,順調な時にコストカットされるものである。これを活用したい。具体的にはバックアップはシミュレーションに使いたい。実際の生産設備と仮想の生産設備。現実とシミュレーション結果が違っていればセキュリティ上またはセイフティ上の問題がある。

 これはローカルとバックアップ同時並列である。バックアップだけの活用を考えて,実機を切り離せば,トレーニング・シミュレータとして使える。仮想の世界なら,いくらでも想定外の訓練が可能である。また,シミュレーションの活用という視点に立てば,新しいソフトを入れることや古いソフトを削った影響を確認できる。仮想で確認の上,実機で実行するという手順である。

 実はトレーニング・シミュレータを設置している事業所はある。しかし,それを実際の生産システムのバックアップだとは思っていない。同じように,仮想システムを使って不具合を修正する使い方はある。しかし,開発段階であり,維持管理には使われていない。このように考えれば,バックアップの有効利用こそが製造業におけるクラウド利用のように思える。まとめれば,二台用意して二重化していても,一台が常時死んでいる二重化は単なるアリバイ作りである。二台あれば常に両者を活用し,しかも一台故障しても支障が出ない二重化でなければならない。

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