浩二 まぁ、僕のほうがしっかりしていたということでしょうね(笑)。兄弟で会社を経営するときには、弟が社長をやったほうがいいという話を聞いたことがあったので。それでいいんじゃないと。営業に回るにも、営業担当者が企業トップというよりは、トップは後ろで控えていた方が動きやすいと思います。何かあったら、社長のせいにできますし(笑)。
加藤 浩二さんは、ずっとソフトウエア技術者だったわけですが、経営者になってから技術者時代と違う点はありますか。
浩二 技術開発と経営者を両方ともやらなければならないのが、一番大変ですね。自分が開発した技術を自分で評価しなければならないので。社長という立場では「こうしたい」とか、「こうあってほしい」という気持ちを持っていても、技術者としては「それはできないよ」と考えるケースがままあるわけです。
その二つの立場のせめぎ合いが自分の中で起きる。それを、一人で処理するのはやはり大変だなと思いました。社長としてはこだわりたいけれど、技術者としてはこだわっていたら開発が終わらない。そんなときには、兄の存在は大きいですね。
加藤 起業のキッカケは。
竜太郎 最も大きかったのは、情報処理推進機構(IPA)の「未踏ソフトウエア創造事業」に、動画編集ソフトウエアの開発プロジェクトが採択されたことです。起業するには、兄弟ともに勤めていた会社を辞めなければなりませんでしたから。
浩二 未踏ソフトウエア創造事業では、ほぼ1年間の年収分くらいの開発援助をしてもらえました。そこで、採択が決まった後、2007年秋に起業しました。
ご兄弟、いいコンビですね
加藤 お兄さんのプロジェクトとして採択されていますね。IPAの事業に応募するのは、技術者ではなくてもよかったんですか。
竜太郎 そうです。プロジェクト管理能力が問われています。ソフトウエア開発などのスキルが自分になくても構いません。でも、実は未踏ソフトウエア創造事業の存在自体を知らなかったんですよ。
加藤 どこで知ったんですか。
竜太郎 SFCのイノベーションビレッジに入居できることが決まって、担当の人に相談したら「助成金があるから応募してみたら」と言われて。(浩二氏に)お前、その前から知ってた?
浩二 知ってたよ。
竜太郎 何でやろうと思わなかったの?
浩二 だって、応募しても採択されるとは思わなかったから。僕には縁のない世界かなと。でも、兄から起業の相談を受けて、未踏ソフトウエア創造事業に選ばれたら、一緒にやるよと言いました。
加藤 ベンチャー企業の育成施設に入居して、何が役立っていますか。
浩二 会社を作りたくても、そもそも作り方が分からないですよね。そういうときに、助言してくれる人がいるので助かります。税理士とか司法書士、弁理士なども紹介してもらえたりするので。
竜太郎 自分はいろいろなアイデアを思い付くタイプだと思うんです。でも、それを具体化する方法論がなかった。それを相談したり、資金を集めたりする方法を知ったのが大きかった。
加藤 ご兄弟、いいコンビですね。
浩二 最終的なところで絶対的な信頼関係があるので、それは強みだと思います。タイプが180度違うこともあって、「二人でひとり」です。
竜太郎 「藤子不二雄」みたいな感じですよ(笑)
(次回に続く)