集まったデータから売上機能分析を行った。その結果、プラットフォーム化するべき要件、つまり、FMラジオとAMラジオの間の共通要件が見えてきた。おおよその大きさや重さ、ヘッドホン出力、AM受信機能、ボリューム調整などはプラットフォーム化するべきだろう。しかし、鳴り物入りで導入されたオートサウンド機能は分析上、不要ということになった。にわかに信じられないあなたは、その分析結果を同期の営業課長に聞きにいくことにした。

「お客さんがそれぞれの機能にいくら払っているかを分析したところ、オートサウンド機能の評価が低かったんだ。心当たりある?」
「あれね。商品企画は競合他社との差別化だと思って、カタログに載せてるけど、あんまり関係ないらしいよ。」
「どうして?」
「親しい販売店の店長が言うには、携帯ラジオは電池の持ちが命で、音質は二の次なんだって。だから音質で差別化したところで、競馬放送を聞きたい多くのお客さんには高く感じるだけらしい。」
「ふーん。でも、音質を重視するお客さんからFMラジオの評判が凄く高いって聞いているけど。。」
「確かに、一部の消費者にとってはプレミアムになるだろうね。しかし、台数ベースでみると僅かなんじゃないか?」
「なるほど。もし、仮にその分安くすることができたら、そういう競馬層にもっと売れるのかな?」
「とは思うけど。でも、てっきりウチはそういう市場を相手にしてないのかと思ったよ。だって、以前そういう提案をしたら、利益率の高い商品に注力するからって、断られたんだ。」
「今回は良いアイデアがあるんだ。昔は二つの製品を同時に開発することができなかったんだけど、それができそうなんだ。」
「大丈夫なのか?ずいぶん設計は忙しいって聞いてるぞ。」
「とにかく、今度企画会議を設定するから、競馬ファン層のデータを用意しておいてくれ。」

 限られた開発リソースを最大限に活かすため、従来の商品企画は「スイートスポット」を見つけるのが仕事でした。しかし、プラットフォーム化という武器を持つと、「スイートスポット」ではなく、よりピンポイントに複数の「スイートスポッツ」を見つけ出すことが重要になります。

 この「スイートスポッツ」の厄介な点は、非常に技術側から見えにくいことです。実際に購入してくれたユーザーからの声は、さまざまな形で技術者に届く一方で、購入してくれなかったユーザーの反応は集まってきません。仮にそのような情報が設計側に届いたとしても、軽視されがちです。なぜなら、高機能=高利益率、という固定観念があるためです。

 付加機能→付加価値→原価アップ→売価アップ→売上アップ

 という従来の構図は物が足りないときにしか成立しません。原価アップしたからと言って、ユーザーはその分の費用を払うとは限らないのです。逆も然り。コストダウンしたとしても、必要とされている商品なら安売りしなくてもよいのです。

 必要機能→顧客価値→売上アップ

 付加機能→付加価値→利益アップ

という、二つの構図が別々にあると考えた方がよいでしょう。