安住を捨てて
爆発研究所の吉田社長。趣味はコンピュータと語る
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 「独立して起業しようと考え始めたのは,いつですか」

 こう先輩にたずねると,意外な回答が返ってきた。

 「実は,1981年に工業技術院に入ってすぐに,辞めて独立することを考えていたんですよ」
 「えっ,本当ですか。なぜですか」
 「官僚体質が,あまり自分に合わなくてね。入所したのが30歳近かったですから,本当は40歳代で辞めようと思っていました」

 結果として,吉田氏は25年間,国家の研究機関に奉公した。その理由は,「爆発の研究という自分の夢を実現し,生きていくための場所はそこしかなかったから」だという。

 「辞めるのは,なるべく早い方がいいと思っていたのですが,そのためには自分を売り込む長所が必要です。それをつくるには,10年以上は必要かなと思いました」

若さか,経験を積んだ味か

 現在の社会では,若い起業家の成功ほど注目を集める傾向にある。特にIT(情報技術)関連では,それが顕著だ。米国のMicrosoft社,Google社,Facebook社など大学や大学院の学生時代に起業し,大成功を収めた創業者が目立つからだろう。

 吉田氏の挑戦は,そうした成功の方程式とは大きく異なる。「年齢を重ねて,経験を積んでから独立する選択肢も十分にあり得る」ということを自ら体現している。研究者・技術者としての「自分の売り物」を見つけ,それを確立してから独立・起業を行動に移しても遅くないというのが氏の持論だ。

 「私の場合は,たまたま起業の時期が50歳を過ぎたということです。Google社やFacebook社などの創業者は,若いうちに自分のアイデアや長所を生かす道を見つけた。その時期は人によって異なるのだと思いますよ」

 こう話す吉田氏は,「どんな環境に置かれても,まずは自分の長所を見つけることが重要。それを生かす場を見つけ,伸ばすことを考えなければならない。当然,その間には努力や我慢も必要です」とも語る。