つくばイノベーションアリーナの一角を担う

つくばイノベーションアリーナの「カーボンナノチューブ」研究領域の目標
出典:つくばイノベーションアリーナの資料
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 経産省と文部科学省は、欧米と肩を並べるようなナノテクノロジーの研究開発拠点を日本にも設けるため、「つくばイノベーションアリーナ」(TIAnano)と呼ぶ組織を、茨城県つくば市に作成した。2008年度から、産総研と物質・材料研究機構(NIMS)、筑波大学が中核機関となり、産業界を代表する日本経済団体連合会が加わった4者が協力してつくばイノベーションアリーナという連合研究拠点を設けた。2010年6月からはナノテクノロジーを基にしたイノベーション創出拠点として、6分野のコア研究領域で研究開発が本格稼働し始めた。 

 その6分野の一つが「カーボンナノチューブ」研究領域であり、CNTの量産実証とCNTとの融合材料開発を使命とする。この結果、単層CNTの“量産品”を安定提供する実証プラントは、同研究領域の中核を占めることになった。

 つくばイノベーションアリーナは、ナノテクノロジーの共通基盤インフラストラクチャーを整備し、企業と大学、研究機関などが互いにオープン・イノベーションを目指した産学官連携を強力に推進し、革新的な技術に根ざした新産業を育成することを目指している。この点で、単層CNTの量産品を提供する実証プラントは、大きな期待を集めている。

 その実証プラントの責任者である荒川氏は、日機装ではCNTの連続製造プロセスの研究開発、次に移籍した富士フイルムでは液晶パネルの位相差フォルムや視野角拡大フォルムの研究開発と事業化を担い、日本ゼオンに転職してからは位相差フォルムの事業化を担うなど、化学品を事業化する“仕事師”として各社で活躍してきた。

 単層CNTを用いた高性能な製品を目指す基盤研究では、日本の大学や研究機関は優れた成果を上げている。優れた要素技術が整いつつある中でも、単層CNTの量産事業に乗り出す企業はほとんど無かった。こうした状況の中で、日本ゼオンはリスクをとる決断をした。日本企業は最近、「技術開発で先行しながら、事業化で負けている」という指摘を受けている。その傍証として、東京大学の妹尾(せのう)堅一郎特任教授が2009年に上梓した単行本「技術力で勝てる日本が、なぜ事業で負けるか」(ダイヤモンド社)がベストセラーになったことに現れているともいえる。日本企業は最近、新規事業起こしでリスクをとらなくなっているとの指摘も依然多い中で、日本ゼオンの挑戦は着目に値する。

 荒川氏は産総研のナノカーボン応用研究センターの担当者とともに、単層CNTの量産事業では、研究開発戦略と事業戦略、知的財産戦略の三位一体(さんみいったい)を図っている。例えば、スーパーグロース合成法の基本特許群を日本、米国、韓国、中国などにそれぞれ出願し審査請求によって成立させるなど、事業で勝つための布石を打つことに余念がない。荒川氏がイノベーターとしての本領を発揮することで、単層CNTの供給事業成功の吉報が数年後には聞かれることだろう。そのころの日本にとっても吉報になるに違いないだろう。

(注)技術組合「単層カーボンナノチューブ融合新材料開発機構」については、http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100818/185014/ を参照。