生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)という生物の多様性に関する国際会議が先日開催されました。

 島国日本は本場ガラパゴス諸島と並ぶほど独自の生態系を持つといわれています。生態系という点では、このようなガラパゴス化現象は誇るべきことかもしれません。しかし、“ものづくり”やビジネスの世界ではガラパゴス現象というのはネガティブな意味で使われます。その代表とされるのが、機能満載ながら世界的には競争力がないと揶揄されている日本の携帯電話機。そして携帯電話機だけでなく、“口うるさい”顧客に鍛えられて進化した日本企業の製品は,世界的に見ると競走力を失いつつあります。

 では,日本のものづくりはこのまま衰退していってしまうのでしょうか? そんなわけはありません。この連載では,世界で最も高い技術力を持ちながら,ガラパゴス化してしまった日本のものづくりをどのように前向きにとらえ、そしてその基盤を生かしながらどのように製品を企画、設計すれば“勝ち組”になれるのかを明らかにしていきたいと思います。

 その前に「ガラパゴスの何が悪い」? と考えている人もいるかもしれません。確かに,日本市場だけで勝負していくのなら,ガラパゴスでもよいのかもしれません。しかし,グローバルに勝負しようとすると,おそらくガラパゴス化のデメリットの方が強調されてくるでしょう。

 まず挙げられるのが、『価格競争力が低下する』という点です。「ガラケー」とガラパゴス化していることを開き直っている日本の携帯電話機は、最近製品単体の価格が明らかになり6万円以上もする高価な機種があることが分かりました。一方、中国で最も売れている携帯電話機の価格帯は400~700元(約4800~8500円)となっており、これでは日本のメーカーが入り込む余地はありません。

 日本製の携帯電話機は、さまざまな特徴を打ち出しながらこれまで進化してきました。例えば、女子高生などのポケベルやPHSを持っていた一部の購買層には、メール機能、写真機能、絵文字などの機能がとても気に入られました。お年寄りには簡単ケータイなどが受け入られました。ニッチな市場を深く掘り下げるのが大得意なのです。このように、日本のメーカーは価格が安く、広く受け入れられる商品を開発するよりも、多少高くても買ってくれる層に向けた開発能力が研ぎ澄まされていきます。

 実際に、メーカー内では開発プロジェクトが商品ごとに行われ、ターゲットが異なれば同じメーカーとは思えないほど設計思想が異なることも珍しくありません。ある携帯電話機メーカーでは、販売先のキャリアごとに開発部門が分かれており、キャリアの担当者と細かいところまですり合わせながら開発を行っています。そうすることで、同じメーカーの携帯電話でありながら、まったく違う部品で構成された商品が隣の部門で出来上がります。少しずつ違う商品を少しずつ生産するので、当然コストは高くなる。それでもユーザーは買うため、メーカーも気にせず同じように開発し続ける。このようにして価格競争力が低下していきました。

 最近ではさすがに共通化の意識が高まり、丸っきり違う部品ばかりということはありませんが、時は既に遅し。機能やデザイン面だけでなく、価格の面でもiPhoneやAndroidケータイに移る人が増えています。

 現在そのiPhoneがきっかけとなりちょっとしたスマートフォンブームが起きています。iPhone 2Gが登場した時、日本の携帯電話機に搭載されているカメラの解像度は、iPhoneの200万画素を遥かに超えて500万画素を超えているものが多く、さらにはiPhoneのように音楽を聴くことが可能な機種も多く存在していました。デザインも多種多様なものがあり、インターネットメールやアプリのダウンロードはお家芸でした。つまり世界一のスマートさを兼ね揃えていたのです。

 それなのに、スマートフォンの主役になれませんでした。ネガティブな理由の二つ目が『技術力がもったいない』という点です。そこまでの技術力を持ち、先行した市場投入の結果、検証もできていたのにも関わらず、市場が取れず実にもったいない、のです。

 固有の環境に特化してしまったガラパゴス諸島の生き物たちは、この上なく個性的で魅力的です。しかし、外来種に侵入されたらひとたまりもないでしょう。実際、ガラパゴス諸島への観光客は上陸前に毎回消毒させられるそうです。そこまで生命力が低下する前に何とかしたいものです。自称ケチでアーリーアドプターである筆者自身も、日本発の先端技術を使った安くて魅力的な製品を早く見たいのです。

 もちろん、メーカーもこれまで腕をこまぬいて何もしてこなかった訳ではありません。「標準化」「共通化」「モジュール化」。このような目標を掲げて、設計を変えていく努力をしています。しかし、あまり功を奏していないように思います。「共通化」を図ってもメタボで肥大化した製品ができ、コスト低減につながっていないケースや、帯に短し襷に長しと言えるような中途半端な共通部品ができ、製品魅力が低下しているケースが多いようです。

 では、どうやったらコスト低減をしながら、幅広いユーザーに対して製品の魅力を高めていけるのでしょうか。それが、「プラットフォーム化」です。日本で携帯電話機のガラパゴス化が進んでいる中、世界一のシェアを持つフィンランドのNokia社は、プラットフォーム化を進めていました。プラットフォームを開発する部門に権限を与え、ソフトウエアを含めた部品を次々に共通化したのです。それだけではなく、デザインなどユーザーの好みが分かれる部分についてはカスタマイズできるようにしました。

 ガラパゴス化で鍛えた技術力を基盤、つまりプラットフォームとし、さまざまなオプションでユーザー特化していくのが「プラットフォーム化」です。このコラムでは今後数回に分けて「プラットフォーム」について掘り下げていきます。次回は、誤解されやすい「標準化」「共通化」「モジュール化」などの近い考え方とプラットフォーム化の違いを、整理していきたいと思います。

※ 本連載に関連するプロセス改革施策にご興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。