現在、関西TLOは和歌山大、京大、立命館大学、奈良県立医科大学、大阪府立大学と技術移転事業の知的財産マネジメントを担当する業務委託を受けている。坂井取締役は、業務委託契約には至っていないが「京都工芸繊維大学、同志社大学、九州大学とも協力態勢をとっている」と説明する。同社は知的財産マネジメントの一括業務委託として、「発明者(教員、研究者など)への発明内容のインタビュー、発明内容の評価(先行技術調査、プレマーケティングによる市場性価値調査)、大学の発明委員会に発明評価リポートを作成し報告、特許出願の明細書作成の支援、技術移転先企業などを探すマーケティング活動までの一貫した業務を想定している」という。

 この業務委託契約による技術移転事業の収入の安定は、同社の事業収入を急速に改善させた。京大産官学連携本部の牧野圭祐本部長は「関西TLOは技術移転事業を順調に成長させる基盤を築いた」とし、関西TLOの知的財産マネジメント能力を高く評価する。

TLOなどの知的財産のライセンス収入総額は米国の1/300

 日本の承認TLOが参加している一般社団法人の大学技術移転協議会(UNITT)は、ここ4年前から毎年、資料集「UNITTサーベイ」を発行し、日本の技術移転の現状を把握する解析を続けている。米国の大学技術マネージャー協会(AUTM)が毎年発行する「AUTMサーベイ 2008年版」と「UNITTサーベイ 2008年版」を比較した解析内容から「大まかな比較結果として、日本は米国に比べて、研究費総額、発明届け出件数、特許の出願件数がそれぞれ約半分と日米のGDP分に比例し、なるほどと納得させられる結果」と、福田猛事務局長はいう。

 ところが「特許などのライセンス件数(オプション契約を含む)、ライセンス収入、ベンチャー企業の設立件数は、それぞれ約1/4、1/300、1/30と日本は米国に比べて大幅に見劣りするとの結果となった」という。特に、特許のライセンス収入が1/300ということは、日本の大学や公的研究機関の研究開発成果から産まれた特許などの知的財産は価値が極端に小さいということになり、TLOや大学の知的財産本部は技術移転事業で収益を上げることが難しいということになる。特許の中身を分析すると、米国は製薬企業などのライフサイエンス企業がグローバル市場で急成長する際に、「大学などで産まれた知的財産を技術移転として受け入れることで、ライフサイエンス企業が成長する役目を果たした」とし、「その対価として、ライセンス収入が高まったと推論できる」という。

 これに対して、日本の大学や公的研究機関の研究成果から産まれた知的財産は、ライフサイエンス企業を牽引するものが事実上少なかったうえに、「あまり成長していない既存産業向けの知的財産もかなりの比率を占めていると分析できる」という。しかし、大学や公的研究機関が産み出す知的財産を技術移転する際のライセンス収入は極端に低いと、大学などからの特許などの知的財産を企業に技術移転して新産業を振興するメカニズムが働かなくなり、各TLOも自立運営できなくなる事態に陥る。こうした現状から、関西TLOの技術移転事業の構造改革は、日本の承認TLOの再生に大きな指針を与えそうだ。

 東京大学TLOの山本代表取締役は「当社では今後、特許などのライセンス料として、一時金として受け取るものから、これまでに技術移転したライセンス料のランニング部分が入るようになるため、TLOの技術移転事業が安定する収入構造に移行する」という。技術移転を受けた当該企業が、その実施権を利用した製品やサービスを商品化すると、販売量に応じてライセンス料を支払うランニングが発生するからだ。承認TLOとして、技術移転事業を10年以上進めてきたことが結実する時期を迎えつつあるという。

 関西TLOの坂井取締役は「今後は海外大学や企業と連携する国際化を進める」という。京大などと協力して、海外の展示会に出展し、海外のTLOと提携して、海外企業などを技術移転相手にしたい意向だ。そのための「海外企業の人脈づくりも図っている」という。日本企業のグローバル市場での活躍に応じて、日本の知的財産をグローバル市場で流通させることを夢見ている。

 現在、技術移転事業が低迷している外部型の承認TLO群が、東京大学TLOや関西TLOを見習って、構造改革を断行すれば、新しい展望が開けることを示唆しているといえる。日本の産学連携にとって、知的財産の“営業部門”であるTLOが活性化すれば、日本が知的財産立国化する道筋がみえ、「知恵」で稼ぐ時代がおとずれる可能性が高まるだろう。