「立体化」か「データ化」か

 そもそも、3次元化することの意味がセットメーカーと部品メーカーで同じなのか、というもう一つの論点もある。映画「アバター」や「アリス・イン・ワンダーランド」「トイ・ストーリー3」で見られるように、形を立体で表現できることは魅力的だし大事なことだが、果たしてそれだけなのだろうか? という点である。

 セットメーカーでは開発の新陳代謝を利用して、単に形状を立体表現するだけでも効果的だった。複雑にユニット同士が干渉するような領域で取り合い設計をしたり、また3次元CADでないと表現できない複雑な曲面を使ったり、単なる立体化がむしろ効果を生んでいたといえる。

 ところが部品メーカーでは、部品点数も限られており、セットメーカーのように曲面でデザインを工夫して設計するようなシーンがあまりない。立体表現を重視する限りにおいて、3次元化によるメリットは部品メーカーではあまりない客観状況である。メリットがあまり感じられず、導入の機会もつかみにくいとなれば、部品メーカーの3次元化が進まなくても当たり前であろう。

 それでは、部品メーカーにとって3次元化は本当に意味がないのか。そこで出てくるのが3次元化のもう一つの意味である「情報のデータ化」である。「情報のデータ化」は、部品メーカー、セットメーカーを問わず、これまではっきりとは意識されてこなかった。3次元化といえば、暗黙のうちにたいてい立体化と同義と考えられていた。

 しかし、実際には3次元化といっても2つの意味があり、このことは部品メーカーにとって大変重要な意味を持つ。「なぜ今さら3次元化なのか?」という問いに対する解にもつながっていく。(表1)。「情報のデータ化」とややあいまいな表現をしたが、少し別の言い方をすれば、これができることによって前回の冒頭で述べた「設計変更にまつわる異常」が発生し得なくなる。

表1●セットメーカーと部品メーカー、それぞれの現状と3次元化の意味
ツール導入 業務 3次元化の意味
3次元CAD ERP FMC 立体表現 情報のデータ化
セットメーカー
部品メーカー ×

 さて、「情報化のデータ化」とは前回触れた「ものづくりのコンピュータ化」、と同じことを指している。メーカーが営利企業である以上、経営者は「ものづくり」はもちろんだが、ビジネスとして成立していくためにお金の動きを気にしなければならない。ともすると経営に近いところからコンピュータ化していく状況に陥ることが多い。

 このような企業は「製品ライフサイクル」に沿って製品情報を管理していくPLM(Product Lifecycle Management)あるいはPDM(Product Data Management)より、直接的な決算状況を把握できる在庫、決済、資産といった情報から先にIT化しようとする。いわゆるERP(Enterprise Resource Planning)である。

 いきなりアルファベット3文字の羅列になってしまったが、これらはあるルールに従って相互につながるべきものだ。そしてものごとの順番からいうと、ERPは実は「情報のデータ化」の流れとしては最も下流に位置する。このことを経営者の方はしっかりと認識する必要があると思う。「情報のデータ化」は、その情報の最上流すなわち設計部門から適用しないと意味がないからだ。

(次号につづく)