正解は,紙飛行機の「形状」と「素材」の中に隠れている。
まずは形状。スーパー紙飛行機は,スペースシャトルを模している。これ自体は何ら特別ではないが,秘密はその質量と翼の表面積の関係にある。宇宙から物体を落下させて大気圏突入時に物体を燃やさない(温度を一定以上に上げない)ためには,速度を十分に抑える必要がある。具体的には,「弾道係数」を小さく 設計するのだ。同係数は質量に比例し,空気抵抗係数(Cd値)と表面積に反比例することから,質量を軽く,表面積を大きくすればいい。
とはいえ,飛ばすのは高度約400kmにある宇宙ステーションから。宇宙ステーションは7.9km/sほどの高速で地球の周りをぐるぐると回っているた め,初速も7.9km/sになる。紙飛行機の弾道係数を小さくしても,空気との摩擦や断熱圧縮による熱で表面温度がある程度は上昇することは避けられず, 普通の紙では燃えてしまう。
「やはりムリか」と思われた2007年,プロジェクトチームはある素材と出合う。正月飾りを製造する横浜市のメーカーが開発した「超越紙」だ。通常の紙 に,アルコキシシラン溶液を出発原料として,ゾル-ゲル法でシロキサン結合を持つ薄膜をコーティングする。紙は紙でも,優れた耐熱性や撥水性を発揮するよ うになる。
この紙を使えば,200数十℃まで燃えない。すると「紙飛行機の弾道係数は0.5kg/m2でいい」(開発に携わった東京大学大学院教授の鈴木真二氏) ことが分かった。シミュレーションの結果,前述した形状と質量が決まる。計算では,高度100kmくらいで5km/sまで減速できるそうだ(図1)。
果たして,この速度で大気圏に突入して,紙飛行機は本当に燃えないのだろうか。2007年12月と2008年1月に東京大学柏キャンパスで「極超音速高 エンタルピー風洞」を用いた実験が実施された(図2)。全長80mmのスペースシャトル型紙飛行機にマッハ7(高度70km地点で6km/s程度に相当) の高速流(気流動圧約8kPa,よどみ点温度約200℃)を10秒間当てたが,燃えたり損傷したりしなかった。この瞬間,スーパー紙飛行機の「実力」が証 明された。
しかし,こうして生まれたスーパー紙飛行機にも欠点がある。地球に帰還したときに,着陸地点をコントロールすることも,そこを自ら知らせることもできな い点だ。この欠点を補うための苦肉の策が図3。「拾われた方はJAXAまでお知らせください」と,10カ国語で書いてある。