多視済済!

 前ページに示したアモルファス構造で閉じ込められる“もの”とは,「光」。特定の波長の光があらゆる方向で伝わらない「3次元フォトニック・バンド ギャップ(3D-PBG)」があるため,この構造を持つ材料で囲った領域に光を閉じ込められることになる。鏡や光ファイバにおける反射とは原理的に異なり,境界面での吸収や入射角の制限などが発生しない(図1)。つまり,直角に曲げるような経路も可能なため,光共振器や光導波路といった光制御素子を極小 サイズで作製できると期待されている。

図1●金属ミラーでは,反射するごとに光が減衰していってしまい大きなロスを生む。屈折率の差を使う光ファイバでは,境界面に対する光の方向によっては通過してしまう。このような欠点がないのが,フォトニクス結晶による閉じ込め法だ。

 3D-PBGを持つのは従来,周期的な構造(フォトニック結晶構造)だけだと考えられてきたが,今回発見されたのはアモルファス構造。フォトニック結晶 構造として知られていたダイヤモンド結晶構造のように4配位であることから,「フォトニック・アモルファス・ダイヤモンド(PAD)」と命名されている (図2)。

図2●「フォトニック・アモルファス・ダイヤモンド(PAD)」(左)と「フォトニック結晶ダイヤモンド」(右)。丸棒の連結点がすべて4配位(4本の丸棒が連結)であるところは似ているが,PADは周期性がないアモルファス構造となっている。

 東京大学の枝川氏らはPADの閉じ込め効果を,数値シミュレーションによって確認(図3)*2。丸棒の長さは平均1μmとし,その中の1本を取り除いて 光を閉じ込める領域を作る。3D-PBG効果では誘電率(屈折率)の差が重要な意味を持つため,今回のシミュレーションでは丸棒の材質を比誘電率13のシ リコン,周囲は空気とした。

*2 光状態密度の計算方法として,その有効性と正当性が確立している有限時間差分法(FDTD)を用いた。

図3●PADを使って閉じ込めた光の強度分布。誘電体の丸棒を1本を取り除き,3D-PBGを持たない微小な領域を作り出した。左は軸方向から,右は側面方向から見た結果である。塗り分けた色では,暖色系の色ほど光の強度が高いことを示している。
図4●粘弾性特性が大きく異なる二つの流体の相分離をシミュレーションした結果。(提供:東京大学生産技術研究所教授の田中肇氏,助教の荒木武昭氏)

 アモルファス構造で光閉じ込め効果を確認できたことの意義は大きく二つある。一つは,同効果の発現メカニズムの正しい理解,ひいては3D-PBGを持つ 新しい構造を発見できる可能性が出てきたこと。もう一つが,実用化に向けた作製技術の進展だ。例えば,「粘弾性の違いによる相分離のような自己組織化に よって形成されるランダムワーク構造などを利用できるかもしれない」(枝川氏)という(図4)。