最近になって3Dテレビが複数の電機メーカーから相次いで発売されています。私は電機メーカー勤務時代,まだフラット・パネル・ディスプレイ自体が実用化される前から,様々な方式の3Dディスプレイに関わってきました。しかし当時は事業化にはかなり距離があると感じていました。例えば95年に三洋電機が「2D/3D自動ソフト変換技術」を内蔵した3Dテレビを発売していたり,最近では2008年に韓国Samsung Electronics社が3Dプラズマテレビを発売したりしていますが,このときは大きな潮流にはなりませんでした。

 それがなぜ急に3Dテレビが注目され,新製品ラッシュとでもいう状態になったのでしょうか。そして3Dテレビが再び取り上げられるようになり注目を集め始めた今,なぜ各社が社運をかけるまでの戦略を取ることになっているのでしょうか。そして相次いで発売される3Dテレビを消費者は本当に望んでおり,購買意欲に繋がる製品になり得るのでしょうか。

 私には現在発売されている3Dテレビが,消費者の思いとは別の企業主導による典型的なプロダクトアウト型の商品ではないのかという疑念が拭い去れません。今回は3Dテレビ販売の戦略とそこに潜むリスクについて考えたいと思います。

本当に消費者は望んでいるのか

 消費者が本当に3Dテレビを望んでいるのかという点について,最近いろいろな方に会った際に「3Dテレビはどう思いますか。買いたいと思いますか」という質問を投げかけてみました。母数は少ないので厳密な結果とは言えませんが,多くの方が買わないと答えたのです。その理由は「3Dは映画館で見るから家では必要ない」「最近薄型テレビを買ったので買い替えは考えていない」というものが大半でした。最近薄型テレビを買った人は,エコポイント利用で買った人が多く,この点では3Dテレビは少々タイミングを外した感が拭えません。

 中にはごく少数ですが,50インチ以上の大型の3Dテレビを是非買いたいという人もいました。理由を聞くと,既にホームシアター用の部屋を持っており,そこに最新の3D機器を入れたいといったように,購入に前向きの人はこだわりのある方々なのです。

 いろいろと話を聞くうちに,一般消費者は3Dテレビが新しい技術であると認識している人が多く,ディスプレイとしては既存の技術であるということを知っている人は少ない,という傾向も見えてきました。このことはテレビメーカー側に有利に働くでしょう。一方で,海外メーカーとの競争が少ない日本国内に限ってのことであり,価格下落を抑止する方向には働きはするものの,この状態を将来に渡り維持できる理由にはなり得ないと思います。

 この従来からある3D技術を使ったディスプレイが,なぜ最近急に注目されたかを考えてみると,技術の進歩によるものだけではなく,テレビメーカーやコンテンツの作り手,すなわちハリウッドの映画会社の都合が見えてきます。