昨年5月から始めたこのコラムも間もなく1年になるが,3月末でコンサルティング業務をすべて終了し現在は再就職準備中なので,このコラムも終了させていただくこととなった。今後,レポート記事を書くこともあるかもしれないが,今までのように自由な立場で論ずることはできないと思うので,コラムとしては次回で最終回とさせていただきたい。これまで実に多くの方々に読んでいただき,この場をお借りして心から感謝申し上げたい。また,多方面から様々な反響をいただいただので,苦労して書いた甲斐があったと満足している。これまでお世話になったFPD業界や関連学会の方々にこのコラムを活用していただけたのならば,コラムニストとしてまたエンジニアとして本望である。

 さて,今回と次回は内容が多いので,前編と後編に分けて2回連続で述べてみたい。まず「Samsung as No.1 ~世界最強のトップダウン・マネジメント・カンパニー」というタイトルを見て,虫ずが走った方は注意していただきたい。日本ほどサムスン(Samsung)のことを不当に低く見ている国は世界に無く,そのようなおごった考えが競争力を失った日本を客観的に見つめる妨げとなり,結果的に日本をダメにしているのである。サムスンはすべての事業を常に世界市場で展開している言葉通りのグローバル・カンパニーである。サムスンのビジネス・モデルは日本企業にとって大いに参考になるものであり,そこから学ぶべきものは多い。今後台湾や中国の企業がサムスンをモデル・ケースとして,低コストを武器に同じような戦略で出てくるだろう。敵を知り,己を知れば,百戦危うからず。そのためにこのコラムが役に立てば幸いである。

大韓民国という国

 まず,韓国について簡単に復習しておこう。実は筆者も実際に韓国に赴任してから知ったことが多く,こんなに近い国なのに意外と知られていないことも多い。今やレンタル・ビデオ店に行けば,韓流ドラマや映画のコーナーが何列も並び,BS放送では毎日何本もの韓国ドラマをやっているにもかかわらずだ。例えば,皆さんは韓国の国旗を書けるだろうか。正確に書くのは難しいが,間違って逆さにしてしまうと大変失礼なことになるので注意してほしい(図1)。空港やイベント会場で韓流スターを迎える時には,くれぐれも正しい向きで振っていただきたい(真ん中の図柄は赤い方が上になっているのが正しい)。

図1 大韓民国の概要と太極旗
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 韓国は北朝鮮と停戦しているが終戦を迎えたわけではない。韓国には徴兵制度があり,成人男子には2年2カ月の兵役義務がある。大学生は大学在籍中に服役する場合が多く,高卒で就職した場合には就職して数年後に服役する場合が多い。また服役期間が終わって社会人になっても,予備役の訓練に招集される場合がある。もちろん予備役で仕事を休む場合には休暇扱いにはならず,どんな大事な仕事があっても訓練に参加しなければならない。軍隊で厳しく鍛えられた身体と精神力は,サムスンの厳しいトップダウン・マネジメントを支える上で大いに役に立っている。