もちろん、この放送が面白かったのは、勝間さん自身のキャラクターや知名度の高さも大きいが、それだけが理由ではないだろう。彼女が1人で生中継するという一方通行のコンテンツではなかったからこそ、面白さが何倍にも増したのである。

 勝間さんの「Ustream初体験」というコンテンツに、ユーザーがリアルタイムにフィードバックを与え、それに彼女自身が応えた。同じ時間にネットで体験を共有する行為を繰り返すことで、面白さの増幅スパイラルに入ったのだ。まさに勝間さんと視聴者の共創作業である。

 この面白さは、ソフトバンクのイベントやニコニコ動画の増幅スパイラルの構造とも異なる。例えば、ソフトバンクのイベントは、生放送の動画コンテンツの周囲に視聴者のコメントという“皮”をかぶせることでコンテンツの面白さを増幅させている。これに対し、勝間さんの例では、放送する動画の内容自体が、視聴者のフィードバックによって変化しているのである。

ネット上にワイワイ集まる人だかり

 さらに、Ustreamでは視聴者が投稿したコメントが別の視聴者を集める呼び水になっている。Ustreamで書き込んだコメントは、自分のつぶやきとして中継放送へのリンクURL付きでTwitterでも公開される。そのつぶやきを見た別のユーザーが「何だ、何だ」と中継を見るために集まってくる。街の中でちょっとした人だかりができると、周りの人がワイワイと集まってくる様子に似ている。

 Ustreamが生み出すリアルタイムの共創環境は、コンテンツを制作する作業自体がそれを消費する人々を誘導する仕組みになっている。これは、新しいコンテンツやモノの作り方の登場を暗示していると言えそうだ。

 これまでは、モノづくりと、モノが完成した後の販売プロセスは完全に分離されていることが当たり前だった。しかし、孫社長の生中継や、勝間さんのUstream学習プロセスを見ていると、コンテンツの制作と、その創造に参加するユーザーを集めること、そして消費行動が同時に進行している。