何も、動物や植物だけじゃァありませんヤネ、絶滅危惧種は。ビジネスの世界もしかり。業種にも、絶滅が危惧される種があると思うのですヨ。何で絶滅が心配されるような業種があると思ったか? 実は、こんなことがあったんです。

 お得意さんから、写真屋さん(DPE*)の空き店舗の活用案を考えてくれと、依頼があったんですヨ。それまで、深く考えたこともありませんでしたが、よく考えるてェと、そりゃァ、今どき大変ですワナ。これだけデジタルカメラが普及したら、フィルム使って写真撮るシト、ほとんどいなくなってしまったんじゃありませんかねェ。そりゃあ、無形文化財的な希少価値ですワナ。

 さらにお得意さんが言うには、「昔は、もうかった業種なので、どこのお店も立地はいいんですよ」。そりゃァそうですヨ、どこの目抜き通りにも、DPEと大書きした看板、ありましたわナァ。しかし今は、そんな隆盛だった面影、残念ながら、あリャしません。

 昔は相当なもんだったが、これから先は? そう考えると、そんな業種が結構ありますワナ。それが、絶滅危惧種だと思ったんですヨ。ためしに、かつての絶滅危惧種だった業種を上げてみましょうヤ。

 例えば、「羅宇屋」。らうやと読むんですが、ははは、今どきのシト、絶対に分かりませんヤネ。羅宇屋の「ラウ」てェのは、キセルのがん首と吸い口をつなぐ竹の管のことで、それを修繕する職業が、昔はあったのですヨ(えっ、キセルが分からない? そりゃァ困った…)。今みたいに紙巻タバコなんざァなかった時代、羅宇屋は、道具箱を担ぎ、街中を歩いて回ってキセルを修繕してあげるという商売だったんですナ。えっ、アタシも重宝していたかって? 冗談じゃありません、100年も前の話ですヨ。アタシのこと、一体、いくつだと思ってるんです!

 冗談はさておき、このほかにも「傘張り屋」なんてェ商売もあったそうで。文字通り、傘を修繕して歩いた商売のこと。要は、以前は栄えた仕事や業種も、あっさりとなくなるときが来る。そして、その予兆があるってコトを言いたいのですヨ。

 さて、時計の針を現代に戻して、周囲を見回しますと、写真屋さんのほかにもいろいろありそうで。まずは、羅宇屋のずうっと後になって隆盛を極めたタバコ屋さん。販売する側もそうですが、メーカーも、そろそろ絶滅危惧種になりそうですナ。大変失礼、それを百も承知で言ってるんですが、タバコ、どうしても不利ですワナ。生き残る要素、どう考えても見つかりませんヨ。これだけ、身体にイイことがない商品、それでも吸うてェのは、少なくとも、この国では少数派になることァ間違いないでしょう。

 ほかに心配なのは、地方の百貨店、デパートですヨ。これも、大変失礼ながら、このままでは、もう、地方におけるデパートの役目は終ったてェことじゃァないですかねェ。いくら合併や統廃合を繰り返しても、従来の延長線上では、かつてのように復活するとは思えませんナ。

 スーパーでは売っていない高級品やブランド物を売っているとはいえ、何でもネットで買える時代に、デパートの売り場の魅力を感じる客が少なくなったのは間違いありませんヤネ。リストラとコスト削減をどうするか。一生懸命なのは分かりますが、それでは、ますます、スーパーと同じ方向に行ってしまうんじゃァ、ありませんかねェ。

 “団体さんいらっしゃい”的な観光ホテルも、危惧されますヨ。高度経済成長期時代、あちこちに建った大きな観光ホテル。今どき、どこもガラガラだそうですヨ。昔、社員旅行てェのは温泉に行ってドンちゃん騒ぎ。それに、忘年会や新年会、壮行会やら歓迎会、何でもかんでも観光ホテルにお世話になったもんですヨ。でも、そんな隆盛を極めた面影、寂しいけれど、今は感じることもできません。

 いやいや、単にケチをつけてるわけじゃありませんヨ。何か、イイ手はないかと、考えているのです。写真屋さんのこともそうですが、これまで、何が、どうして客に受けて、今に至ったのか、それを考えれば、何かアイデアが出るんじゃないかと思うのですヨ。相談があった写真屋さん。それだけ立地がいいのですから、写真でなくてもお客さんは居るはず。そう考えると、商品は写真の現像でなくても、いろいろありそうです。

 つまり、ものは考えよう。経営者自らが高齢化しているのですから、周囲のお客さんだって高齢化しているのは間違いありませんヤネ。だったら、例えば、高齢者が集まるコミュニティー的な、小さな喫茶店なんかどうですかねェ。バリアフリーの店内で、高齢者が好むような飲食物を、同じ高齢者になったオジサンやオバサンが、昔話でもしながら提供する。そんな“お茶のみ友達”が集まる場にするてェのはどうでしょうか。

 同じように、デパートも高齢者がくつろげて、一日いても飽きないようなお店にするのもいいんじゃァないですかねェ。それも、どっちかと言えばお金持ちのお客様を意識するてェのはどうでしょう。どこにも、お金持ちがある比率でいるそうで、そのシトたちって、あんまりスーパーでは買い物しないようですヨ。

 言いたいのは、絶滅危惧種てェのは、確かに絶滅したものもありますが、大抵は、これでは絶える、それを本能的に感じた種は、自らを変えて、亜種となったり、新種となったり、それなりに進化して、結局は生き残っているてェことなんですヨ。失礼な物言いをしちまいましたが、何もしないと絶滅危惧種となってしまう。そのように、いつも危機感を持つのが、大切てェことなんです。もちろん、経営企画室長のアタシも肝に銘じて、ウチの会社が絶滅危惧種にならぬよう、いつも、気を引き締めるようにしたいてェことですナ。要は開発。開発は絶えることなく続けないと、企業は絶えるんですヨ。

 さてさて、いつもの赤提灯。ここでも、絶滅危惧種の話です。「次郎さん、それは失礼よォ。デパートがなくなるなんて、考えられないわ。だって、アタシ、欲しいものがあると、まず、デパートに行って品物を見るの。そして、気に入ったら、ネットで同じものを、一番安い業者から買うのよォ。それができなくなるなんて、困るわよォ」。オイオイお局、それって結局、デパートで買ってねェってことじゃないか。こんな客が多くなったわけですから、困ったものですナ。

 部長も、何やら心配な業種があるようです。「デパートじゃあないけど、商店街。これも心配だよナァ。シャッター街てェくらい、シャッターが下りっぱなしになっちまった街、多いゼェ。地方に行くてェと、もう、どこもシャッター街だよ。これも何とかしなくちゃあ」。郊外に大規模スーパーができた途端に、街から商店街が消える。これも、全国的な絶滅危惧種ですヨ。

 飲むほどに酔うほどに、いつもは気分が良くなって行くはずなのに、今夜は、段々と気が重くなってきましたヨ。極めつけは、お局の一言。「そうそう、アタシの身近にも居るのよ、絶滅危惧種。そう、これも全国的かもしれないわネ。聞きたい? じゃァ、教えてあげる」。固唾をのむ、アタシと部長。「それはネ、ステキな紳士、ステキなオジサマよォ。もう、滅多に見ない、絶滅危惧種よねェ。ドキドキするようなステキな紳士、ホント、いなくなってしまったわネ」。なるほど、そうきたか。

 「だいたい、今どきのオジサン、変なニオイがするのよネ。身だしなみに無頓着になると、皆同じ、オジサン臭がするようになるのヨ。最悪なのは、それに自分が気付かないってことかしら。じゃあね、お先に失礼するわ。バイバイ!」。

 お局が一気にまくし立て、帰っちまいやした。残された二人。クンクンと、お互いのニオイを嗅いだんですが…。自分じゃ分からないてェことァ、やはりオジサン臭? あ~あ…。

* DPE(development,printing,enlargement):写真現像取次店