(3)内需拡大を計り,世界の工場という輸出国から消費国への進展

熊谷氏 「爆発する消費市場としての中国は,先ず,自動車市場が年間1360万台で世界一の規模になったことも重要ですが,より注目すべきことは生産,販売ともに前年比40%増という驚くべき伸び率だということです。また,外食産業については,2008年の売上が1兆3000億元(約20兆3000億円)を超えるマーケット(1990年から年間約18%の成長)であることです。さらに,世界の小売業の10%は中国の売上だと言われています。2009年の日本百貨店協会の統計で国別の購入総額トップ3は第1位・中国,第2位・台湾,第3位・香港です。中国の購買層が日本の小売にも消費不振からの脱出のカギにもなってきています。ユニクロが中国で大型店だけでも1000店舗展開を目指すということは容易に理解できます。

 また,中国で生まれる赤ちゃんは毎年約1600万人(日本は約100万人),中高年のシルバー人口は08年に1億6000万人と日本の人口より多いのです。これもまた,すごいマーケットです。そして,中国の海外旅行者は2008年に4000万人を超えたといいます(国内旅行者は延べ15億人)。日本への旅行者はようやく約100万人に達したばかりです。日本の政府は2015年までに500万人を超える中国からの旅行者をと,手を振っています。中間所得層の増大がチャイナパワーを加速させています。

 世界は中国製の安価な商品を求めていることもさることながら,各国の国内需要が低迷していることもあり,アジアの市場(中間層のマーケット9億人と言われている)に,特に中国のまさに目を覚まさんとしている約5億人と言われている市場に生き残りをかけて現地生産,技術導入,サービス業の開拓を展開していると言っても過言ではないでしょう。これにより作るもよし,買うもよし,生活するもよしということですが,そうなると元々中国は世界の工場である立場から,生産のための原材料確保が必須となります。輸出も国内需要ということで,中国が世界のマーケットで資源確保のため東奔西走していることが良く理解できるでしょう。」

 なるほど,最近中国関連のニュースに出ている通り,中国政府主導でアフリカの資源を求め,資金援助などを通じて積極的な国交外交を展開しているし,南米ブラジルに広大な農園を購入するなど食料確保にも余念がないとも聞く。13億人を抱えた国家ともなると,地球規模で明日の生活を準備してゆかねばならないのもうなずける。1億人だと10年先まで想定した政策でも小回りが利くが,13億人いると百年の計でないと豊かさが国民全体に行き渡らないのも道理だと思った。

熊谷氏 「中国の内需拡大市場に成功を収めている日本企業の例として資生堂があります。資生堂は,2005年からはこれまでの大都市での百貨店販売から中小都市でのフランチャイズによる化粧品専売店の設立をスタートし,2009年8月で3100箇所の専売店を展開しています。1991年から中国の1兆円(2008年 約1兆1200億円)ともいえる市場を開拓しており,中国女性のオシャレへの関心を盛り上げてきました。その結果,2010年には650~700億円の売上を予想しており,海外販売の2割を占めるにまで成長してきています。」

 考えてみれば中国人口13億人の半分は女性である。女性は「美しくなりたい」。だから6億5000万人は化粧品を買い始める,というマーケティングの三段論法が成り立つ。だとすると半分の6億5000万人の男性は男性化粧品,男性雑誌,男性ファッション,腕時計,一眼レフカメラ,バイク,スポーツカーなど大ヒットする可能性があるということだ。

 資生堂の成功要因は地道に足を運び,商品を説明した成果だと聞く。いい商品さえあれば直接中国に出向いて営業すればチャンスは充分あるということなのだ。

 熊谷氏のお話から,中国巨大市場がしだいに魅力的に思えてきた。それに挑戦するとは「ジャックと豆の木」みたいなものかもしれないけど,小さなことからならやってできないことではなさそうだ,とも思える。

 そこで「もっと手っ取り早く中国に物を売る方法はないのか」を考えてみたいと思う。

―――次回へ続く―――