熊谷会長と筆者
熊谷会長のお話を必死に聞き取る筆者

(2)内陸都市の活性化

熊谷氏 「現在,中国の人口約13億人のうち都市人口が約44%。毎年約1%ずつ都市化率が上がると言われています。これが2020年には都市人口が約55%になり,その数は約7億~7億5000万人に増えると予想しています(中国科学院資料)。この現象は消費拡大につながるわけです。」

 なんと,日本の人口の約6倍が都市部に住むと予想しているわけだ。

熊谷氏 「中国は2025年までに3億5000万人が農村部から都市部に移動し,人口1000万人以上の8つの巨大都市,及び500万~1000万人の15の大都市,100万人以上の221の都市が形成されるとしています。『都市人口は現在の6億人弱から10億人近くに達し,中国の全人口の3分の2以上が都市部に集中する』と,米コンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニー上海支社のジョナサン・ウェッツェル取締役は予測しています(関連記事)。」

 もし本当にそうなれば15年間で3億人分の建築,雇用,インフラ整備を新たに用意することになる。と同時に新たに3億人市場が誕生することになるわけで,都市生活に移住するとき彼らが憧れる都市生活と生活商品とは何か? を洞察できれば3億人マーケットに参加できる。中国では勝ち組の証となる見栄っ張りデザインが売れるそうなので「豪華絢爛の住宅や車」「リッチで派手なファッション」などがヒット商品になり得るわけだ。

熊谷氏 「中国は総合経済対策4兆元(約57兆円)と大胆な金融緩和策によって,“リーマンショック”後の世界経済の悪化からいち早く抜け出しましたが,4兆元の財政出動のうち約4割はインフラ投資,それも内陸部向けの投資が占めています。これまでの経済成長のエンジンであった経済圏 珠江デルタ,長江デルタ,環渤海経済圏など沿岸部の経済特区活性化から,内陸部の経済を活性化し発展させるために,特に交通や物流のインフラを充実させ,GDPに占める内陸部のシェア(現在40%以下を約50%の水準に)を高めようという政策です。重慶市や四川省(成都),広西省などの地域の成長率は2ケタになって,沿岸部と逆転の現象が起こっています。

 今後も大規模なインフラの開発プロジェクトが続きます。例えば,「中長期鉄道網建設計画」によると,現在約8万kmの鉄道営業キロ数を2020年までに12万kmまで拡大する目標を掲げています(日本の全鉄道の営業キロ数は約2.7万km)。日本の新幹線に相当する高速鉄道は2万km以上を建設します。 今後15年間の建設投資は全体で約5兆元(約68兆円)超になる見通しで,年間平均約3,300億元(約4兆円)以上の投資が必要になります。高速道路も今後30年以内に総延長を8.5万kmに引き上げる計画で,全体で約2兆元(約30兆円)になる見込みです。その中で,広大な中国大陸に新たな鉄道幹線を南北,東西にそれぞれ4本ずつ走らせる「4縦4横」計画を掲げており,完成すればこれまで比較的遅れていた内陸部や東北地方の経済振興も大きく前進することでしょう。

 また,国務院は09年12月,新たに22都市の地下鉄建設を認可しました(08年末時点では10都市31路線)。投資額は約8,820億元です。2010年には55路線,総延長1,500kmになります。上海は総延長420kmまで伸びる計画です(cf. ニューヨーク370km,東京304km)。

 なんとおおよそ日本の全鉄道の総距離を新幹線にするというのだ。

熊谷氏 「ですから,鉄道セクターでは日本のナブデスコ・日本信号・日本車両や,川重・日立などのビジネスチャンスが十分考えられます。米国でも,新幹線やリニアなどの高速鉄道の受注にJR東海も欧州勢や韓国,中国との受注競争になりますが,日本の政府の対応も重要なカギとなります。

 またエネルギー解決の一端を担う原子力発電の海外事業や,ITを使って電力を供給する次世代送電網(スマートグリッド)を活用した電力供給体制の整備でも同じことが言えます。日本の高い技術サービスと実績なら海外に受け入れられるはずです。中国を中心としたアジア市場で,韓国(サムスンや現代グループなど),台湾勢(友達光電,TSMCなど)がビジネスチャンスとして政府と一体で積極的な外交経済活動を展開しています。今後,日本企業も政府と一体で本腰を入れた海外展開が必要です」

 なるほど,政府主導のチャンスに各国はしのぎを削っているが,日本企業は苦戦をしいられているわけです。

 中国大陸を縦横無尽に走る高速鉄道ができると直接中東の石油を中国全土に配給できるようになる。どうりでロシアが必死で抵抗したはずだ。

 それにしても,高速道路の建設をしながら高速鉄道を優先したのは環境保全を意図したからだ。13億人が車のアクセルを一斉に噴かしたら地球破壊を起こしてしまうし,石油エネルギーの輸入では足りなくなる。一方では電気自動車の開発に力を入れるのは当然なわけだ。