個別に聞いてみれば「○○手法の導入で作業効率は1.7倍になった」とか「研究開発の投資効率が34%向上した」とかいうことかもしれない。けど、ざっくりトータルにみたとき、「いろいろやってるみたいだけど、全体としては何だかちっともよくなってきているような気がしないんですけど」というのが正直な感想なのである。いや、ちゃんとやってそれなりに効果は上がっているのだが、それを上回る速度で企業環境が悪化しているだけ、ということなのだろうか。

 それとも、メーカーが「○○に取り組んでいます」と高言する割に、実はたいしたことはやってないということなのか。いや、会社は本気だけど、社員がついてきていないとか。それには、ちょっと思い当たる節もある。

 私がメーカーに勤務していたころは、まだまだ未来は明るくみえていて、「抜本的な業務改革」みたいなことはあまりやってなかったように思う。それでもQCや実験計画法の習得など、基本的なことは仕込まれたのだが、その一つに、「KYT」というものがあった。「空気読めない田中さん」ではなく「危険予知トレーニング」の略である。

 そのネーミングにまずムカっときた。「危険と予知は日本語のローマ字表記でトレーニングは英語のままか?それなら訓練とかにせんかい」と。われながら、あきれるほどの狭量ぶりである。憤慨しつつも研修は受けた。まず、イラストが配られる。そこには、ツッカケ履きでポケットに手をつっこみ、ヘラヘラと道を歩いている作業着の従業員らしき人間が描かれている。それを見て、「このどこに危険が潜んでいるか」を答えさせるのである。

 意図は分かる。「ツッカケは転倒しやすいからNG」とか「ポケットに手を入れていると転倒したときにケガをしやすいから慎むべし」と答えさせたいわけだ。けど私はイラストが稚拙であることをいいことに「こんなちっこい目で前が見えるはずがない、危険」とか「足が地についてない、超危険」といった不穏当な発言を繰り返していた。イヤなヤツである。で、ついには指導官の逆鱗に触れ「廊下で見張りをしているように」と申し渡されるに至るわけだ。

 その結末はともかく、要するにそのような「手法」の習得に不熱心で、もっといえば反発があったのである。その反発が、何に起因するものなのかはよく分からないところなのだが、事実として同期にも、同じような反発を抱く「同志」が少なからずいた。あの雰囲気を思えば、「改革手法を従業員間に徹底させるのって、そう易しいことではないだろうな」と思うのである。

改革の副作用

 まあ、そんなことも多少はあるかもしれない。けど、それが支配的要因というやつなのだろうか。個人的には、違うのではと疑っている。何だかもっと本質的な問題があるのではないかと。