人事評価Cの社員のやる気を引き出す仕組みづくり

 中村会長は人事面でも「評価Cの社員を大切にするようにしている」と独特のいい回しをする。これは、なかなか奥の深い発言内容である。

 人事評価がAやBのできる社員は社内で仕事ぶりが認められ、「たぶん毎日会社に来るのが楽しくて仕方がないだろう」。これに対して、「評価がCの社員は面白くないこともあるだろう」と中村会長は分析する。

 同社は液晶パネル向け製造装置では2008年当時に金額ベースで約90%のシェアを取った。納入先のユーザーにとって使いやすい製造装置を目指して研究開発し改良し続けた結果だ。こうした大型製品の研究開発や製品化の中核メンバーは評価がAやBの優秀な社員が務める。しかし、大枠の基本設計はできても、そのままでは優れた商品にはならない。

 基本設定を基に、使い勝手のいい商品に仕上げるには「コツコツと地道にバグ取りをする作業が欠かせない」。この仕事の主役は評価Cの社員となる。彼らが地道に改良を続けた結果、ユーザーに高く評価される商品が誕生する。また、納品した製品のメンテナンスサポートなどの地味な仕事も、ユーザー評価に直結する。

 評価Cの社員がやる気を失ったら、基本設計がどんなに優れていても、よい商品にはならない。だから、バグ取りを地道に担当する社員の気持ちを軸に、「評価Cの社員が気持ちよく仕事をする環境を考えている」という。人事の基本は「賃金は年功で決め、評価の高い社員は出世させる人事で、その貢献に答えている」という。

 製品開発や事業面では実は選択と集中をしてることになる。売れる製品を目指す選択と集中では、「社員にお願いして仕事をしてもらっている」という。この結果、製品開発などでの失敗は責任を取らせない仕組みを導入している。事業の主力製品は経営陣が承認して、仕事として社員に取り組んでもらうのだから、「その目標を定めた責任は経営陣やリーダーにあると考えている」という。

「ポストFPD戦略」を支える研究開発力

 アルバックは液晶パネル向け製造装置で2008年当時にシェア約90%を取った。シェアがここまで高いということは、事業としてはあまり伸び代が期待できないことになる。こうした事態が予測できた2004年当時に、同社は「ポストFPD戦略」を打ち出した。液晶パネルのようなFPD(Flat Panel Display、フラット・パネル・ディスプレイ)の製造装置事業は研究開発としては既に山場を越したと判断し、その次期主力事業をつくり出す研究開発に力を入れて始めたのだ。

 その新規事業起こしの成果の一つは、話題を集めた太陽電池の一貫製造ライン(フルターンキーライン)だった。また、最近はハイブリッドカー向けなどに成長が期待されているリチウムイオン2次電池向けの製造装置にも力を入れている。その一環から、2010年1月に「太陽電池パネルの発電設備と電気自動車用の急速充電器を組み合わせたシステム」を製品化した。

 同社は「ポストFPD戦略」として、デジタル家電向けの電子部品製造装置とエネルギー・環境向け製造装置での事業化を図っている。たとえば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電子機械システム) の製造装置などを研究開発中だ。エネルギー向け製造装置では、自動車用モーター向けの高性能永久磁石などの製造装置も研究開発しているという。

 「ポストFPD戦略」では、これまでの製造装置事業に加えて、急成長している中国市場向け事業や、これまでに納品した製造装置などのメンテナンスを手がけるカスタマーサポート事業なども視野に入れ、それぞれの事業化に力を入れている。カスタマーサポート事業はエネルギー・環境向け製造装置と同程度に成長させる戦略を描いている。

 この点では、単なる先端部品・部材の製造装置事業というモノづくり事業から多様な事業形態を複合化した総合モノづくり事業に進化する戦略を取っている。この進化を支えるのは研究開発の基盤技術であり、それを多種多様に拡充していく社員のモチベーションにあるといえる。そして、その社員のモチベーションを高める研究開発マネジメントが一層重要になっていくだろう。