コピーしても原価が発生しない商材を扱うという点がITビジネスの本質と書いたが、本質はもう一つある。機械の知恵を使える点だ。コンピューター(ソフトウエア)が自動で売り上げを稼いでくれる仕組みを構築できるのである。

 Google社のインターネット検索サービスを見ればよく分かる。同社は、優れた検索ソフトウエアをパッケージ製品としては販売しなかった。あくまでソフトウエアは自分の持ち物にしておいて、収益はインターネット広告で獲得している。検索エンジンと広告システムが連動しながら、ほぼ全自動で売り上げを稼いでくれているのだ。

 どのようなビジネスモデルで収益化するかは別として、ソフトウエアをインターネット経由で提供する仕組みを最近は「SaaS(Software as a Service、サース)」と呼ぶ。流行の言葉を使って「クラウド・コンピューティング」と言い換えても、ほぼ同じ意味である。

残業や過労を気にせず、24時間365日働く

 ユーザーが1人であろうが、1億人であろうが、一度開発したソフトウエアは何度でも利用できる。データセンターを拡張する必要はあるが、ソフトウエアは残業代や過労を気にすることなく、24時間365日働き続ける。リアルな世界のビジネスと違って、ユーザーが増えても、人件費はあまり増加しないわけで、ビジネスがうまく回り始めれば、利益率が高まっていく。

 楽天や米Amazon.com社のようなインターネット通販企業は、その恩恵を得ている象徴的な例だろう。両社のようなモノを扱う流通企業でも、コンピューターに稼いでもらうことで、リアルな店舗を持つ流通企業よりも格段に高い利益率が確保できている。扱う商材がデジタル化された情報になれば、さらに利益率は高くなる。

 グリーの例に当てはめて考えると、売り上げ自体をコピーに原価がかからないアイテムの販売で稼ぎ、かつ、その販売や集客はリアルな店舗や人間ではなく、無料で使えるSNSというコミュニケーション用のソフトウエアとゲームが担っている。そういう意味では、グリーはITビジネスの本質である、(1)情報はコピーしても原価がかからない、(2)ソフトウエアが自動で売り上げを稼いでくれる、という二つを利用したビジネスを実践している。

 従来は、サービスの価格が低下すれば、利幅が減るというのが当たり前だった。だが、ITの本質をつかんだビジネスでは、その常識は成り立たない。「非常に高い利益率」と「サービスの価格がどんどん低下し、最終的には無料になってしまう」という矛盾した事象をビジネスで並存できるのだ。