次に、こうしたニーズや制約条件の変化に対して、自動車メーカーとしてはどのような戦略や考え方をもって臨めばよいのか、という点を考えてみよう。以上見てきたように、安全性などの消費者ニーズが高まり、制約条件が厳しくなる状況であれば、基本戦略としては日本メーカーがこれまで培ってきたいわゆる「日本型システム」が有効性を維持することになると思われる。

 もちろん、これまでの日本型システムを単に続ければよいということではなく、グローバル化に対応したものに進化させていく必要がある。グローバル化のポイントはいくつかあるが、ここでは調達戦略について見てみよう。

 トヨタは、2月9日に開いた記者会見の中で、グローバル調達を進めていくことが基本であることを改めて強調した(Tech-On!関連記事)。この会見で述べられている、「狙いの品質をきちんと造り込む」や「仕入れ先と長く付き合っていくことが,その仕入れ先を成長させることにもなる」といった考え方は「日本型システム」そのものである。しかし、この日本型システムをグローバル化する試みが、未だ完成していない、ということを今回の問題は浮き彫りにした、ということなのかもしれない。

 例えば、今回リコール対象になったアクセルペダルを製造した米CTS社との関係については明らかになっていない部分も多いが、東京大学教授の藤本隆弘氏は、電子化や電動化などの複雑化に伴う開発負荷が大きくなったことが背景にあるとしたうえで、次のように述べている(日経ビジネスオンラインの関連記事)。

「恐らくは機能要件など基本設計の条件を部品メーカーに提示する承認図方式で、米部品メーカーのCTSにアクセルペダルの詳細設計を任せたのでしょう。それでもあくまで実車の部品評価を行うのは完成車メーカーです。トヨタ側の品質評価能力が不足していた可能性があります。」

 承認図方式に代表される詳細設計含めて部品メーカーにまとめて任せる方式は、長期継続取引などと並んで、元々日本の自動車産業で発達した「日本型システム」であった。日本メーカーはこれをグローバル化しようとしてきたし、欧米メーカーはこれに学んできた。藤本氏は著書『能力構築競争』(中公新書)の中でこう書いている。

「しかしながら、国内生産の成長が終わり、「部品企業間のグローバルな能力構築競争」(自動車メーカーからみれば「サプライヤー能力の多面評価によるグローバルな部品調達」)が不可避となってきた1990年代、系列慣行は、部品企業の組織能力ではなく過去の「関係」や「しがらみ」を基準として取引企業を選別する傾向が否めなかったという点で、競争力の足を引っ張る恐れが出てきた。つまり、国際競争という観点からいえば、競争機能を持つ日本型サプライヤーシステムと、その意味ではむしろ夾雑物に近い「系列慣行」のコントラストがはっきりしてきたのである。この点、日本型サプライヤーシステムの採用に努めてきた欧米企業は、一方では「日本型システム」の全面的な導入ができないきらいがあった反面、「系列慣行」にはあまり染まっていない分、「系列なき日本型システム」の採用が、部分的にはできていた、との解釈も可能だ。」(本書p.300)