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コラム

独自材料で滑り軸受を加工,金属の特殊接合にも取り組む〔三矢精工〕

2010/02/16 12:00
森野 進=日本起業家新聞社
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出典:日経ものづくり,2009年2月号 ,pp.133-135 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

三矢精工のここがすごい!

ATやCVT用滑り軸受の老舗メーカー。ブシュ,スラストワッシャを中心に,月間1000種以上の製品を生産する。独自に配合した合金の活用や焼結技術に優れ,これら技術を特殊接合製品などに応用している。

 三矢精工は,自動車や二輪車向けに円筒形状のブシュや扁平のスラストワッシャといった滑り面で軸を受ける滑り軸受を加工している。近年では軸受加工で培ったノウハウと生産設備を生かして,スタビライザ用のストッパリングや電磁クラッチなどの新たな分野にも進出した。

 同社は,1913年に帝国ゴム工業所として創業。1940年に滑り軸受の加工を始めた。戦時色が強まる中,当時の日本陸軍と国内自動車メーカーから自動車部品の国産化の要請を受けてのことだった。以来,滑り軸受の加工専業となり今日に至っている。

 主力事業は,自動車の自動変速機(AT)や無段変速機(CVT)に使われている滑り軸受の内面材(ブシュ)とスラスト方向の力を受けるワッシャの加工である。AT車の場合, 3〜4個のブシュと12〜16個のワッシャが変速機1台に対して使われている。2008年には,これらの部品を月産300万〜400万個加工した。

異種金属接合加工のライン
異種金属接合加工のライン
鋳鉄製のワークにプレス機で銅合金のリングが挿入された後に,焼結炉に運ばれる。

独自材料をラインアップ

銅合金のリング
銅合金のリング
炉の中で鋳鉄と溶着しやすくさせるため,銅合金には特殊成分を添加している。。
電磁クラッチ部品
電磁クラッチ部品
矢印で示した色の濃い部分が銅合金(写真では画像処理でグレーを濃くして目立たせている)。
ブシュ加工の自動機
ブシュ加工の自動機
多品種少量加工のため,品目ごとの専用ラインとはせず,現有設備を臨機応変に使用する。
三矢精工社長の高橋尚樹氏
三矢精工社長の高橋尚樹氏

 三矢精工には,顧客の図面通りに加工するという業務はほとんどない。開発の初期段階で顧客の技術者から耐荷重性や耐摩耗性といったスペックを聞き,その条件に適した材料を選定して製造法とともに提案するのが一般的な手順だ。しかも使用する材料の多くは独自に合金成分を調整したものや複合化したもの。多様な材料に対応できることが強みになっている。

 滑り軸受の外面は鋳鉄製だが,回転軸に接するブシュには,一般に潤滑剤を含浸させた合金や耐摩耗性金属,樹脂などが使われる。同社は,ブシュの材料として,主に銅系の焼結合金を用いている。通常ブシュの材料としてよく使われているのは,リン青銅,鉛青銅,高鉛青銅などだが,一つの合金で耐荷重性となじみ性のような二律背反する性質を持たせることは難しい。そこで同社では特殊な金属成分を配合しているという。例えば,高温高荷重の環境で使う軸受向けに独自の合金も開発した。

 さらに,鋳鉄製軸受の内面にフッ素繊維の織物を張り付けることで摺動性と耐荷重性を両立させた完全無給油軸受や,環境負荷の低減を目指して鉛を全く使わない軸受なども実用化している。

 こうした開発品のうち,例えば約15年前に自動車メーカーと同社が共同開発したワッシャは,青銅層にセラミックスを複合させたもの。これは現在でも多くのATに使われ続けている。それまでの鋳鉄製のワッシャは5000rpm以上の高速回転になると摩耗したが,同製品は8000rpmまで耐えられる。その後も材料開発を続け,現在では3万rpmに耐えるセラミックス配合ワッシャを実用化している。「もしも,これらの材料がなかったら,AT車の性能は変わっていたかもしれない」と三矢精工社長の高橋尚樹氏は胸を張る。

焼結技術を特殊接合に活用

 多品種少量加工によるきめ細かな製品造りも三矢精工の特徴だ。そんな中から新しい技術も生まれた。部分焼結技術がその一つである。軸受の内面に合金層を形成する工程では,通常,粉末合金を塗布してプレスした後,焼結炉の中で焼き固める。その際,合金層は軸受の内面全体にわたって形成される。ただし,中には全面形成を必要としない場合もある。そこで同社では不要部位をマスキングし,必要な部位にだけ合金層を形成する技術を開発した。

 全面焼結工法だと後工程で不要な部位を削り取る必要があった。余分な工程がかかり,材料も無駄になる。これに対し,部分焼結は工程をほとんど増やす必要がない上,製品の軽量化と材料費の削減も可能だ。同技術を用いた製品は,ATをはじめ,最近ではCVTにも使用されている。「展示会に出品すると自動車メーカーからの注目度が高い」(同社)。

 鋳鉄と銅合金といった具合に,異なる二つの金属を完全に溶着させる技術も開発した。例えば,磁性体と非磁性体を一体化できる。異なる金属を重ねて焼結炉で加熱すると,ある温度帯で接合界面だけが溶け合って「加熱溶着」という現象を起こす。同社は,これを電磁クラッチ部品に応用している。同部品は,磁性体である鋳鉄製の円盤に,非磁性体の銅合金を一体化させたものである。

 部品の製法は,鋳鉄の円盤面にリング状の溝を造り,プレス機で圧力をかけながら銅合金のリングを埋め込むもの。次に焼結炉に送り,1000℃前後で熱処理することによって加熱溶着を起こさせ,鋳鉄と銅合金を一体化する。さらに,研磨などの機械加工を施して部品が完成する。

 工程自体は単純だが,そのプロセスにはノウハウが凝縮されている。まず,リング状の銅合金は市販の合金ではなく,鋳鉄と相性が良い特殊成分を配合したものを使用している。また,銅合金を鋳鉄に挿入する際の圧力の掛け方や焼結炉内の温度や時間管理も重要なポイントになる。

 この技術を習得するきっかけは,同社の焼結技術に着目した自動車メーカーからの要請だった。それまでは電磁クラッチの非磁性体リングにはステンレス鋼を使い,全面溶接で一体化していた。しかし,溶接には手間とコストがかかる上,不良品がしばしば発生してしまう。「よく,『どんな接着剤を使っているのか』と聞かれるが,溶着のための接着剤は一切使用していない」(高橋氏)。

 ただし開発は難航し,4年前に着手してから完成までに2年間を要した。同社では今後,滑り軸受や電磁クラッチで培った材料技術や焼結技術などを他の分野でも積極的に利用していく方針だ。

三矢精工
所在地:埼玉県深谷市
三矢精工 資本金:1億万円
従業員数:185人
売上高:40億円
主要生産品:ブシュ,スラストワッシャ,電磁クラッチ部品
得意な技術:独自成分の合金製造,焼結,金属の特殊接合
主要な設備:プレス機,焼結炉,マシニングセンタ
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