最近赤字が続くメーカー各社の方から、これからは自社のサプライチェーンを開いてEMSやOEMを活用することでコストを下げていくアジアの競合各社が採っているビジネスモデルに転換する方向がよいのではないかという声をときどき聞くことがあります。

 しかし、サムスンや最近ではシャープからの液晶パネル供給に頼るソニーのテレビ事業が赤字をなかなか脱却できないのはなぜなのでしょう。そしてこのような前例があるのに、単にサプライチェーンを開くだけで充分なのでしょうか。

 この議論は、今の日本の停滞した産業をどのように再生するか、自社の建て直しをどのように行っていくかという議論に繋がる重要な鍵だと思います。今回はこのポイントについて考えていきたいと思います。

 リーマンショック後の日本では停滞ムードが支配しています。しかし電機産業などの分野では、世界市場のパイは確実に増えているのです。日本企業だけが停滞している感は拭えません。一方海外を見ると、サプライチェーンをオープンにして成功している例が発展の著しいアジア諸国をはじめ多く見受けられます。それが前述の意見を生む原因でしょう。

 私は企業の成長戦略を手がける関係から、特に新しい事業のコンセプトや戦略構築に関していろいろな企業とよくディスカッションを行いますが、その話題の多くは今ある成熟した事業でいかに利益を出すかという問題です。

 最近やっと日本独自の技術やビジネスモデルに固執するのではなく、世界標準に合致した技術や製品を世界、特にこれから成長するアジア、そして将来はアフリカ諸国までを視野に入れて売っていこうということをよく耳にします。こういう意識の変化は停滞を抜け出すための第一歩として大いに歓迎すべき方向だと思いますが、問題はその戦略だと思うのです。

 論点を明確にするために、次の二つについて考えていきたいと思います。一つ目は、単にサプライチェーンをオープンにして世界標準を採用するだけでよいのか、日本企業はどういう戦略を採っていくべきかという点です。二つ目は、ではその戦略を実現するために、どのような施策を行っていかないといけないかという点です。

 まず一つ目の論点について考えます。

 前述のサプライチェーンをオープンにすべきという意見ですが、そのためにきちんとしたバリューチェーンを作らないといけないという意見が続きます。ところが具体的に何をするかという議論になると、どうしても技術力やブランド、デザインというポイントしか出てこないのです。

 他社とのとの差別化が必要なのはみなさん分かっていますが、その差別化要因を技術力やブランド、デザインに頼るというわけです。実際、日本企業は、これらを軸にした差別化に何度もトライしています。ただし、これまで華々しい成果を上げているとは必ずしも言えません。前述のソニーのテレビ事業も、その大きなブランド価値に助けられて急速に液晶テレビ事業を立ち上げることができました。しかしながら赤字をなかなか脱することは難しいという事実があります。

 日本以外のアジア製の製品は、日本人から見ると低機能で、品質、信頼性に多少問題があるように映ります。日本は高機能を追い求めてきたことは周知の事実です。ところがここに至って低機能でそこそこの品質の製品が、発展途上国を中心に爆発的に広がり、日本が得意とする高機能の製品に比べて、そこそこの品質の製品に世界市場の多数派の消費者の目が向いています。

 その多数派の価値観と日本企業の方向性にずれができてしまっていることに気が付いたのは重要なことです。しかしながらそのずれは、アジア諸国との価格差の解消だけを追い求めても、技術力やブランド、デザインを前面に出しても吸収できるとは思えません。